第196話 錬金術師観賞


『くそぉぅっ!俺はやるぞ!俺はやるぞ!やっちゃうぞ!』


やけっぱちに叫びながら、錬金釜に素材を入れていく錬金術師さん。


一応ドールの素材は女性型でメイド系統のアイテムに変更されてはいるけど、グレイと同じだ。


「うなぁ」


というか、俺あんなに入れてたんだ。


他人がやってるのを見てしみじみ思った。


「むしろあんな関係無さそうなアイテムが使われてんのか俺」


グレイがなんだか遠い目をしている。うむ、自分の誕生行程を見てるようなもんだもんな。


でもお前、自分の誕生の瞬間も見れるだろ?だって俺の日常はカメラで撮られてるんだから。アーカイブあるぞ?


「やっぱりどの釜でもドール入っちゃうんだねぇ」


ミロクのやつだけじゃなかったんだねぇ、とご主人は錬金釜を見ていた。


『全部入れた!入れちゃったぞ!混ぜ、おもっ!?重たい!嘘だろ!?こんな重たいのか!?猫が作ったんじゃないのかよ!どうやってこんな重いの混ぜたの!?』


「にゃ」


猫じゃらしで混ぜ混ぜした。


念動使ってるから重さとかわからんのだが?そんな重いの?


『錬金術師の筋力なめんな!非力だぞ!』


顔を真っ赤にしながら混ぜているが、非力なのを堂々と言うな。世の中にはマッチョな錬金術師が居るかもしれないだろ!


「確かに錬金術師って生産魔法系の分類だからレベルアップのステータス補正は魔力とか知力とかが上がりやすいんだよね」


「うにゃ」


それ、筋トレやれば済む話だぞ。


「……それはそうだね」


ステータスとか関係なく筋肉つけるなら筋トレしなきゃいけないことに、ご主人は気がついた。


だから、結論として非力なのと錬金術師は関係ないってことだ。


「キュキュー」


魔法職の高村がレッドオーガをサンドバッグにしてたから、本人の努力しだいじゃないかな。とヤクシは言ったが、高村はなんだか違う気がする。


『うおぉぉぉぉっ!』


頑張って混ぜてるけど、さっきからコメントがうるさいばっかりになってる。誰も応援しないの可哀想なんだが?


「キュー」


うるさいっと、とヤクシはコメントを入力した。


『ぐおぉぉぉ…うぉっ!?』


力いっぱい動かしてたのに急に抵抗がなくなった。みたいな動きをしてバランスを崩して倒れた錬金術師さん。


「にゃにゃぁ?」


この人普通にどんくさいのでは?


「こういうこともあるよ、人間だもの」


ご主人が錬金術師さんに親近感わいてる。けどフォローは下手くそだった。


「出来たみたいだぞ?」


グレイのいう通り、釜からはピクピクと震えている手が出ていた。


「にゃぁ?にゃにゃ?」


これ真っ裸だけど良いのかな?人間ってメスの裸はダメなんだよね?


「ドールだから良いのでは?」


「一応コメントで注意してあげてよ」


「キュー」


というわけで、コメントしたんだが、この人コメントを見てない。


『ぎゃぁっ!?ピクピクしてるんだけど何これ!?出来たの!?何で!』


ぎゃあぎゃあ言いながら引っ張り出そうとしてる。


精一杯伸びてご主人の目を肉球で押さえるのだ、ドールとはいえ女性の裸を見せない配慮をせねば。


『え!?なに!何でシーツ……あ!カメラがあるんだった!ナイスだメイド1号』


うむ、引っ張りあげる前にお手伝いメイドドールが錬金術師さんにシーツを渡した。


「自己判断が出来るドールとか、かなり上位の錬金術師だな」


グレイはなんとなくだけど、この錬金術師さんの凄さがわかるらしい。


『なんか、出来たんだけど……ユニークでは無いねぇ?』


鑑定持ちらしい。というか、見た目はグレイの初期に似た女性で、ユニークドールっぽい。


『レア度エピックって何?初めて見たんだけど?』


不思議そうにシーツに包まれた女性型ドールを眺める錬金術師さんは、怪しい人にしか見えない。


メイド1号が錬金術師さんの肩をツンツンして、高村からの依頼書を渡した。


『……え、羽を千切って髪型を良い感じに整えてから起動しろって?』


錬金術師さん、依頼書と作りたてホヤホヤドールを交互に見ながら、千切る?と首を傾げている。


『メイド1号、お願い。俺には千切れる気がしないんだ……筋力的な意味で』


錬金術師さんが言ったら、メイド1号はナイフを錬金術師さんに渡した。


メイド1号、自分でやれと言いたいらしい。


『………やるよ!やれば良いんでしょ!うぅぅ…』


恐る恐るナイフを持って、羽を切り取った錬金術師さん。頑張れ次はヘアカットだぞ。


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