第95話 老人

 闘技場に立つアキラ。

『今の自分はその辺の冒険者では歯が立たないレベルだ』という自信に満ちあふれている。


「さあ、誰でもかかってこい!」

 現れた対戦相手は今にも死んでしまいそうな、ヨロヨロの老人だった。


「お、おじいさん……大丈夫ですか?」

 これから戦う対戦相手だが、さすがに心配になるアキラだった。


「おお、大丈夫じゃ……」

 老人は剣を杖がわりにしながら立っている。


(おいおい、まさかこんな高齢の冒険者がいるとは……サクッと勝って終わろう)

 アキラはそう思っていた。


「それでは、始めてください」


『ダッッ!』

 虎石の開始の声と同時にアキラは飛び出した。


 武器は普段使っている『ドラゴンの剣』の代わりにケガをしない柔らかい剣。

 しかし、能力アップアイテムがいつもと同じだ。

 トップ冒険者顔負けの装備をしているアキラのスピードは凄まじかった。


 ◇

 スクリーンに映るアキラを観戦する花子とまどか。


「速いですね。アキラちゃんねるさん」


「うん。能力アップアイテムも馴染んできたみたいで、最近は手が付けられないスピードよ」


 ◇


 アキラは超スピードで老人に詰め寄る。


「優しく、優しく……」

 相手は年寄りだ。万が一が無いよう力を加減して、老人を剣で叩く。しかし、


『スカッ!』

「あれ? 空振り!?」

 アキラの剣は空を切る。


「お、おかしいな……爺さんは動いてないようだけど?」

 相変わらず剣を杖にし、その間に突っ立っている老人。


「うーん、手加減しすぎて空振ったのかな……?」

 アキラはたいして気にも留めず、もう一度老人に斬りかかる。しかし……

『スカッ!』

 また空振りだ。


「な、なんだ……!?」

 さすがにこれはおかしい。アキラの表情にも緊張感が走る。


 ◇

「アキラさん……どうしたの?」

 花子も訳がわからず、スクリーンを眺めている。


「……あの御老人……ただ者じゃないかもしれません……」

 まどかはつぶやく。同じ剣士として何か気づいたようだ。


 ◇


 闘技場では、呆気に取られるアキラと、微動だにしたない老人。


「……どういうことだ? あの爺さん……なにかやってるのか?」

 2度の空振りで、ただの老人では無いと確信したアキラ。

 一度と距離を取り、様子をうかがう。

 見た目はヨボヨボの老人だ。


「うーん、俺も花子さんみたいに飛び道具があれば、離れて闘いながら様子を見れるんだけどなぁ……

 あっ! そうだ」 


 アキラは指に装備している『召喚獣の指輪』を触る。

 ダンジョン配信でお馴染みなカブトムシが現れる。

 もちろん召喚獣もダンジョンアイテム。ここでの使用は問題ない。


「よし! カブトムシ、あのじいさんに体当たりだ!」

 カブトムシに突撃を命ずるアキラ、はじめての使い方だ。

 カブトムシは老人に向かって飛んでいく。


「ふむ……その生意気な装備品に召喚獣か……。やはりタダのガキじゃないのぅ」

 老人は初めて剣を構える。

『シュンッ!』


『カーン……』

 アキラの遥か後方に、カブトムシが落ちる音が響く。


「……え?」

 アキラの目には何も見えなかった。

 しかし、自分の後ろに吹き飛ばされた召喚獣……間違いない。

 あの老人は目に見えないスピードで剣を振り、カブトムシを叩き飛ばしたのだ。


 ◇


「相変わらずだな。あの爺さんは……あの頃より強いんじゃないか? なぁ?」

 アキラの模擬戦を見ながら元トップ冒険者 虎石ジュンジが横に立つ男に言う。


「……ああ、そうかもしんねェな……。それより、なんであのボウズがいるんだ……?」


「どうだ? あのジイサンの戦いを見てたら、お前もダンジョンに戻りたくなったんじゃないか?

 アイテム屋はやめて、お前もダンジョン省の運営を手伝ってくれよ、金剛寺」


 アキラの戦いを見る運営の中に、髭モジャの男の姿があることを3人は知らなかった。





★★★★★★★★★


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