第96話 完敗

「今度はワシからいこうかの」

 老人はアキラに向かいゆっくりと歩き出す。


「くっ、なんだこの爺さんは……?」

 アキラは再度、老人に剣を振り下ろす。


『スッ』

 やはりアキラの剣は空を切る。


「……なるほど。わかったぞ」

 アキラは老人の動きを見逃さなかった。

 高速で無駄のない最小限の動きで攻撃をかわしていのだった。


 しかし、それが分かったところで攻撃が当たるようになるわけではない。

 老人はアキラに反撃する。


「うわっ!」

 あまりの速さに、剣を目で追うことはできない。


 ◇

「ちょっと……なんなのよ、あのおじいさんは!?」


「アキラちゃんねるさんの攻撃をギリギリで回避して、自分は超高速で反撃……すごい技術ですわ」


「……でも、案外アキラさん、おじいさんの攻撃を受け流してるわね」


 ◇

「うわっ! うわっ!」

 老人の超高速の攻撃を、アキラは剣で受け止め、盾で防ぐ。

「ほう……やるのぅ……」

 まさかの守備力に老人も驚いているようだ。


 アキラは老人が攻撃を仕掛ける直前の体の動き、重心の移動で攻撃を予測する。

 もちろん、アキラは人と戦った経験は無い。

 しかし、数千回のダンジョンクリアの経験で得た勘の良さで、アキラ自身も無意識で防いでいた。


 ◇


「おお、あの青年なかなかやるじゃないか。

 えーっと、九アキラ……か。

 なるほど、さっきのとんでもない魔力の女と仲間か……」


「ボウズ……こんなに強かったのか……」


 スクリーンで観戦する虎石と髭モジャ店長こと金剛寺。

 金剛寺と3人が知り合いな事を虎石はまだ知らない。

 ◇


「くっ! 速いな……」

 老人の攻撃を受け続けるアキラ、全て防ぐことはできず、ダメージは徐々に受けている。


「くそ! 軽い剣なのに……いつまでも守っているだけじゃだめだ!」

 アキラは後ろに下がり、呼吸を整える。


「ふぅ……よしッ!」

 地面を強く踏み、飛び込む用意をする。


「ほう……決死の一撃のつもりか……いいじゃろう、受けて立とう」

 老人は剣を上段に構える。

 あまりの迫力にアキラはもちろん、スクリーンを見る観客にも緊張感が走る。


「く……何者なんだ、この爺さん!? 絶対名のある剣豪だろ……まあ、やるしかないか!」


 花子とまどかも固唾を飲んで見守る。


 アキラは地面を蹴り、ロケットのように老人に飛び込む。


「うおおおお!」

「むっ? これは速い!」

 老人の剣を持つ手に力が入る。


『ダンッ!』

 強烈な打撃音が闘技場に響く。


 闘技場には剣を振り下ろした老人が1人立っている。


「うぅ……」

 闘技場の片隅に脇腹を抱え、うずくまるアキラの姿が。

 アキラの突進を老人は吹き飛ばしていた。


「おい、魔法使い。早く回復魔法をかけてやるんじゃ。肋骨が粉々のはずじゃ」


「ア、アキラさん!?」

「……完敗ですわね。あのご老人は達人です……」

 スクリーンを心配そうに眺める花子とまどか。


 ◇


 悶えるアキラに回復魔法がかけられる。

 5人の回復魔法使いがアキラを取り囲みケガを治す。


「はぁはぁ……あー、死ぬかと思った……これが回復魔法か、すごいな……」

 骨折も痛みも一瞬で完治した。


「ほっほっほ、すまんの小僧。つい本気を出してしまった」

 模擬戦を終え、老人がアキラに寄ってくる。


「いえ……あの……おじいさんは何者ですか!?」


「ほっほっほ、それはまた話そうか」

 老人はそう言い残し、闘技場を後にした。


 完敗だ。アキラはそう思った。






★★★★★★★★★

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