第93話 圧勝

「さあ、いくぜぇ!」

 入れ墨男はまどかに一気に詰め寄る。

 スピードアップアイテムを装備しているようだ。

 そのスピードは今までの模擬戦の冒険者の中でも1番だ。


 ◇


「ま、まどかちゃーん……」

「うーん、今までの素人同然の冒険者とは違うね。なかなかのスピードだ」

 スクリーンを心配そうに見守る2人。


 ◇


「オラァ! くらえ!」

 男は高速で、剣を荒々しく振りまわす。

 しかし、まどかは1歩も動かない。


「……なんだ。こんなもんですか」

 まどかは男の斬撃をすべて見切り、剣で受け止める。


「な、なにぃ!?」

 自分の半分ほどしか生きていないであろう女子高生に、自慢の剣技を完全に防がれて焦る刺青男。


「雑な攻撃ですね。基礎がなってませんわ!」

 まどかは男の持つ剣を、下から斬り上げる。

 男の剣は、手を離れ宙に舞う。


「……は?」

 一瞬の出来事に男は、剣を飛ばされたことに気づくまでに時間がかかった。


「ほう! ……そこまでだ」

 虎石は戦いを止める。誰の目から見てもまどかの圧勝だった。


「や、やったぁ!」

「すごいわ、まどかちゃん! あんなに強くなってたのね!」

 スクリーンを見て、まどかの勝利を喜ぶ2人の姿は、娘の運動会に来た親のようだった。


 ◇


「ふぅ、見ててくれましたか?」

 まどかが闘技場から戻る。一発も食らうこともなく、無傷での帰還となった。


「もちろんさ! 見事な勝利だったね」


「ありがとうございます。でも、やっぱり人間と戦うっていうのは不思議な感覚でしたわ。私はモンスターとしか戦ったことがないですから」


「確かにそうよね……それに思ってたよりレベルの高い冒険者のこの中にはいそうね」

「うん、油断できないね」


 この会場には冒険者だけではなく、配信者も混ざっている。

 これまでの模擬戦も、配信者同士の対決では見るに耐えない、低レベルな試合もあった。

 しかし、まどかが戦った刺青男もそうだが、レア度の高いアイテムを装備している冒険者もいるようだ。


 ◇


 次の試合は花子の番号が呼ばれた。


「きゃー、私!? よし、しっかり応援しててくださいね」

「気をつけるんだよ?」

「花子姉さん! 頑張ってください」


 花子は扉をくぐり、闘技場へと向かった。

 花子が魔法使いと分かると、運営は手首に魔力を抑えるブレスレットをつけた。


「……果たして、あの魔力を弱めるアイテムで花子さんの『炎帝のブレスレット』の力を抑えられるんだろうか……」

「……対戦相手が心配ですね」


 これから戦う花子の心配だけじゃなく、対戦相手が火葬されないかの心配をするアキラとまどかだった。


 花子の対戦相手は、身長2m、体重150キロほどのプロレスラーのような巨漢の中年男性だ。

「ぐふふふ、可愛い子だねぇ! エッチなことしちゃおうかなぁ」

「……なんなのッ? 冒険者って変態しかいないの!?」


 花子の模擬戦が始まった。






★★★★★★★★★


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