第92話 天下〇武道会

 早速番号が呼ばれ、2人の冒険者が扉をくぐる。

 ダンジョン内での戦いは、会場の巨大スクリーンに映し出されるようになっている。


 ダンジョンの中は広い無機質な空間だ。

 天下〇武道会でも始まりそうな石でできた闘技場に向かい合う2人の冒険者。

 闘技場の周りを取り囲むダンジョン省の人たち。

 誰を『政府公認冒険者』に決めるかを見ているのだろう。


「それでは始めてくれ」

 虎石ジュンジが開始の合図を出す。


 1人は剣使い、もう1人は斧使いの冒険者の戦いだ。

 もちろん、どちらの武器もケガをしにくい、軽い素材でできている武器で戦う。


 剣使いが先に動く、スピードアップのアイテムを装備しているようで、なかなかのスピードだ。

 斧使いは反撃をするが、空振り。

 剣が斧使いの顔面を叩いた。


「そこまでだ」

 虎石は戦いを止める。


「よっしゃあ!」

 勝利に喜ぶ剣使い。

 顔面を叩かれた斧使いは悔しそうだが、ダメージはさほどなさそうだ。政府の用意した武器は本当にケガの心配は無いようだ。


「おいおい、ガチの戦いじゃん……」

「こえーよ……」

 会場からは不安そうな声が聞こえる。


「……アキラさん、まどかちゃん、今の戦いどう思いますか?」

 花子が2人に聞く。


「……俺は人と戦った事は無いから……よくわからないけど……」

「……全然レベル低いですわね……」

 アキラとまどかは口を揃えて言う。


「そうですよね……」

 花子もそう感じていた。


 3人は気づいていなかった。

 ダンジョンに行き放題という、恵まれた環境でがむしゃらに冒険し続けた結果、並みの冒険者ではない力を手に入れていたことを。


「さぁ、次の模擬戦だ。番号を呼ばれたものは扉に入れ」

 冒険者研修は続く、それからの模擬戦も3人から見るとレベルの低い戦いが続いた。


 そして、いよいよまどかの番号が呼ばれた。

「あ、私の番みたいです……うぅ、緊張しますわ……」

 いくら相手は強くないとは言え、初めて人間と戦うまどかは緊張していた。


「大丈夫よ。まどかちゃん! 今までの戦いを思い出して」

「……はい! 行ってきます」

 まどかは扉に入っていった。


「……なんと言うか……娘を送り出す親の気持ちがわかる気がするね……」

「なに言ってるんですか! しっかり応援しましょう!」


 スクリーンにはまどかと対戦相手が映し出される。


 ◇


「お? なんだなんだ? お前女か? ヘルメットしてて気づかなかったけど、こんな子供も混ざってんのかぁ?」

 対戦相手の男はまどかを見てニヤつく。


「ひっ……コイツはさっきの!」

 全身に刺青の入った男。まどかの対戦相手は、先ほど虎石ジュンジに暴言を吐いたあの男だった。


「へへへ、女子高生かな? ここは異世界、なんでもありだ。楽しませてもらうぜ」

 男は剣を構える。


「き、気持ち悪いですわね!」


「それでは、始め」

 虎石が開始の合図を出す。


「あー、さっきのガラの悪い男か……」

「だ、大丈夫かしら、まどかちゃん?」


 まどかの模擬戦が始まった。

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