第70話 パス機能

まどかはスライムを斬り続けた。


「ダメ! 真ん中をしっかり狙わないと! 上のレベルじゃ通用しないわ」

次々と自分に飛びかかるスライムを確実に斬るトレーニングをするまどか。

お嬢様育ちで一見派手な彼女だが、こうしたコツコツ積み重ねる努力をできる少女だった。


「さあ、かかってきなさい! ……って、あれ?」

数十体のスライムを倒したまどか。どういうわけかスライムの姿がない。


「どうしたのかしら……もしかして、売り切れ!?」

売り切れと言う表現が正しいのかは分からないが、まどかはダンジョンすべてのスライムを倒してしまったようだ。


「なるほど……一回のダンジョンで現れるモンスターの数は上限が決まっているようね」

また一つ、ダンジョンの秘密が分かった。


「じゃあ仕方ないわね。ボススライムを倒してもう一回、レベル1のダンジョンに入り直しましょうか」


まどかがボスステージに上がるとボススライムが現れる。

ボススライムもしっかりと見極め、一撃で真っ二つに斬った。


「うーん、まだまだね」


ダンジョンをクリアしたまどかの前にダンジョンガチャが現れる。


「普通ならワクワクするんですけど……レベル1ですしね……」

まどかは期待せずにガチャを回す。


『ガチャ!』

『木の棒 レア度★☆☆☆☆』


「……ふん、わかってたわよ! まったくこの木の棒、かさばるからイヤなのよね!」


ダンジョンをクリアし、レベル1の扉の前に飛ばされたまどか。

手に持っていた木の棒をロビーに投げ捨てる。


「さ! まだまだ行くわよ。入場料が無料って……ほんとありがたいわ!」


まどかは再びレベル1のダンジョンの扉を開く。


「さっき同じレベルだけど……中の作りは違うのね。ダンジョンは異世界って言うけど、異世界にはレベル1のダンジョンがたくさんあるのかしら?」


早速、スライムが姿を現す。


「きたわね!」

まどかは剣を構える。何度も何度も反復練習をし、剣の扱いを体に覚え込ませる。


数十体のスライムを倒したところで、スライムを姿を消した。

「また売り切れのようね。さ、ボススライムを倒してもう一回よ」


まどかがボスを倒すと、当然またダンジョンガチャが現れた。

「……ほんとにいらないのよね、あの棒。このままやり続けたらロビーが木の棒だらけになっちゃうわね」


レベル1のダンジョンでいいアイテムが出てくる確率はほぼゼロだ。


「はー、毎回引くのも面倒臭いわ」

まどかは現れてダンジョンガチャに近寄らず、愚痴をこぼしていた。

そのまま10秒ほどした時、


「あら!?」

まどかはいつものロビーのレベル1と書かれた扉の前に飛ばされた。


「え? どういうことかしら? いつもはダンジョンガチャ引いたら外に飛ばされるんですけど……

なるほど。ガチャを引く意思を見せなければ、ガチャを引かないでも外に出られるってことかしら?」


まどかの予想は当たっていた。


ほとんどの冒険者は高い入場料を払ってダンジョンに入る。

そして、ダンジョンガチャを回すこと自体が楽しみにもなっているため、回さないと言うケースはほとんどない。

そのため、どの冒険者もガチャを回さず、ダンジョンを出れることは知られてはいなかった。

そもそも、レアアイテムがまず手に入らないレベル1のダンジョンを、何度も連続もクリアするのは、無料で行き放題のまどかくらいだろう。


「パス機能ってところかしら? よかったわ。これでロビーが木の棒だらけになる心配はなさそうね」


まどかは一安心していた。


しかし、この時、彼女はまだ知らなかった。

たまたま見つけた、パス機能と名付けたガチャ放棄。

これがとんでもない秘密を秘めていたことを。




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