第29話 加齢臭

 死闘を終え、アキラの部屋に戻ってくる2人はボロボロの格好で疲れ切っていた。


「ふう、今回ばかりは死ぬかと思ったね……」


「はい。低レベルのモンスターとは文字通りレベルが違いましたね……」


「今度からは少しレベルを下げて配信しようか?」


「なにバカなことを言ってるんですか、アキラさん!」

 アキラは言葉に怒り出す花子。


「今回の配信の盛り上がり、チャネル登録者の増え方を見てなかったんですか!?

 やっぱり、ほのぼのダンジョン配信も良いですけど、視聴者が本当に望んでいるのは強力なモンスターとの熱い戦いだと思うんです!」

 熱弁をふるう花子であった。


「た、確かに……一理あるな。でも毎回こんな危険な戦いを繰り返していたらそのうち本当に死んじまうよ?」


「そこでアキラさん! 更なる強力なアイテムを購入しましょう!」


「お、いいね! でも……俺もそうしたいんだけど、高いからなぁ……

 まあ鉄の剣もボロボロになっちゃったし、新しい武器を用意しないとダメだね」


「そうです! もっと強力な武器、防御力の高い防具を身につければ、高レベルのダンジョンだって冒険できますよ!

 くぅーッ! ワクワクしますね!」

 何かにとりつかれたようにギラギラと輝く目の花子。


「花子さん……目が怖いよ。アンタすっかりダンジョンにハマっちまったね……」


 今までの人生で喧嘩はおろか、人を叩いたこともなかった花子。

 その彼女が自分より巨大なモンスターを銃で撃ち倒す快感を知ってしまったのだ。

 ダンジョンでは男女の力の差はほとんどない、あるのは武器や防具のアイテムの差だけだ。


「そ、そんな……とにかく、もっといいアイテムを集めましょう!」


「そうだね。もっといい剣が欲しいなぁ。鉄の剣も自分でガチャを引いてゲットして気に入ってた武器なんだけどね……」


「そうしましょう! 私も電気銃の制度を上げるアイテムや、すばやさを上げるアイテムが欲しいですね!

 アイテムショップに行ってみましょう!

 私は……ナンバーワン女配信者になりますよッ!!」


 燃えている花子。きっと彼女は強くなる、そう思ったアキラだった。


「あと……」

 花子はアキラのボロボロになった服を見る。いつも配信で着ている、動きやすい黒いジャージだ。


「前から思っていたんですが……衣装ももう少しちゃんとしましょうか。

 ゴリラにボロボロにされたんで、買い替える良い機会です」


「まあそうだね……動きやすいけど、視聴者も増えてきたし新しくしようかな」

 さすがにこのボロボロジャージとはおさらばだ、アキラは衣装の購入を決めた。


「そうしましょう。配信者にも清潔感を求められる時代です! もっとオシャレで、高機能な衣装にしましょう。

 清潔感といえば……あの、言いにくいんですが……」


 花子はアキラを怪訝な目で見る。


「な、なんだよその目は……?」


「あの、アキラさんのヘルメット……少し汗臭いですよ? いや、加齢臭っていうんですかね……?」


「ええ!? か、加齢臭!?」


「もちろん毎日かぶってるからしたかないですでけど……たまには洗ってくださいね!」


「わ、わかったよ……ダンジョンアイテムも臭くなるのか……」


 女性から臭さを指摘されたアキラは地味に落ち込んでいた。

 アキラはすぐにヘルメットを水洗いし、ベランダに干した。


「スポンサーのステッカーが貼ってあるけど……大丈夫だよね?」


「まあベランダなら外からは見えませんからね。よかった! これで臭い思いしなくて済みますよ」


「……クッ!」


 いちじくアキラ、26歳 加齢臭を意識する年になっていた。

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