第30話 ラッキースケベ
『コンコン』
アキラの部屋がノックされる。
「アキラー、ちょっと今いいかしら?」
アキラの母が入ってくる。
「あら、ごめんなさい…今日もいらっしゃってたんですね! えーっと……」
「あ……おじゃましてます。花子です……」
恥ずかしそうにアキラの母に挨拶をする。
「そうそう、花子さん! フフフ、ごゆっくり!」
すっかりアキラと付き合っていると勘違いしている母親に気まずそうな花子であった。
「そうだ、アキラ。お隣の
大きい段ボールだからアンタ届けてくれないかしら?」
「配達ミスか……分かった、行って来るよ」
アキラは母親に返事をする。
「そういえば2人とも……しばらく会社には行ってないけど大丈夫なの?」
ギクッとするアキラ。
「はは……だ、大丈夫だよ……テ、テレワークってやつさ……」
アキラが無職になったことを母親は知らない。
「ふーん、今どきなのね。じゃあお隣に届け物よろしくね」
「アキラさん! まだ仕事辞めたこと言ってないんですか!?」
花子は呆れたように言った。
「言えるわけないよ! あの年代の人は配信者とか大嫌いだろ? しばらくは誤魔化すさ……」
「まあ……そうですね……、そういえば、アキラさんのお母さんって私がアキラさんの彼女だと思ってませんか!?」
「どうかな……でも仕方ないだろ、いくら否定したって、花子さんは平日の昼間から俺の部屋に入り浸ってるんだよ?
いつまでも同僚じゃ通じないだろ!」
「うぅ……まあそうですね……」
しぶしぶ納得する花子。
「じゃあ、ちょっと隣に荷物届けてくるよ」
「はーい、配達ミスですか。たまにありますけど、迷惑な話ですね」
◇
アキラは隣の豪邸、
「うっ、なんて重さだ……ったく、めんどくさいな」
『ピンポーン』
反応は無い。
「留守かな?」
円山家とは付き合いはほとんどないが、お金持ちで両親と若い女の子が住んでいるはずだ。
「うーん……郵便受けに入る大きさじゃないし……置いて帰るのもなぁ……出直すか?」
アキラが帰ろうとしたその時、ドアが少し開く。
『ガチャ』
「なんですか……?」
女の子の声だ。
「あ、隣の九です。ウチにオタクの荷物が間違って届いてしまったみたいで、持ってきました」
「あー、すみません。ありがとうございまーす」
ドアから片手だけ伸ばす彼女。
「あの……メチャクチャ重い段ボールなんで片手じゃ持てませんよ……玄関に入れますよ?」
女の子1人で持てる重さではないと思い、アキラは親切心から運び入れようとする。
「いいからッ! そこに置いといて!」
強い口調で怒る彼女。
(せっかく届けたっていうのに失礼な子だ! これだから若いもんは!)
などとオッサン臭いことを思うアキラ。
「じゃあ、ここ置いておくんで!」
段ボールをドアの前に置く。
(まったく!)
アキラがふと視線を上げると……
「キャッ! 見ないでぇッ!」
「!!!」
なんと、部屋の中にはバスタオル一枚の若い美少女の姿が!
「は、早く帰って!!」
バスタオルを巻いた女の子は恥ずかしそうに胸元を抑えながら大声で叫ぶ。
「あ、ご、ごめんなさい……」
(なんだ……風呂上りか? それならそうと……)
アキラが急いでその場を離れようとした、その時……
「キャァアッ!」
彼女のバスタオルが緩み、はらりと床に落ちた。
「!!」
アキラの視界に飛び込む圧倒的な肌色!
『ブブッ!』
大量の鼻血が飛び散る。
「キャッーーーッ!!!」
悲鳴を上げる彼女。
「うわあああ! すいませーん!!」
逃げるように走り去るアキラ。
もちろん、アキラは悪気はなかった。
重い段ボールをドアの前まで運んであげただけだ。
不幸(幸福?)な事故だったのだ。
「た、たしか……円山さんちの子って……高校生くらいだったよな……」
『ブブッ!』
先ほどの光景を思い出し、再び鼻血が吹き出す。
童貞のアキラには強烈な光景だった。
アキラはフラフラになりながら部屋に戻る。
「ど、どうしたんですか! そんな血だらけで! 事件ですか!?」
届け物をしただけのはずが、血だらけで帰宅したアキラを心配する花子。
「ああ……とんでもない事件だったよ……」
ゲッソリと、しかし、どこか恍惚の表情のアキラ。
「いったい何が……? そして、どうして少し前かがみなんですか……?」
「……」
男には言えない事情もあるんだよ。アキラはそう思った。
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