⑱
店の外に出た俺達は急いで、音の聞こえる方へと向かう。その音は、獣に似た咆哮、そして、何かが破壊されている音だ。獣に似ているけど、あの太く地面を震わせるような咆哮を放つ存在を知っている。
「やはりか」
熊に似た外見ではあるが、その体表を岩石に覆われているモンスターアースグリズリが暴れていた。村の周りを囲っていた柵を破壊し、村の建物を破壊している。
「シバ、パール、村の人達を安全な場所まで!」
イナバーンの木剣を抜き、地を蹴る。逃げようとして倒れ込んだ人に襲い掛かろうとするアースグリズリの丸太のように太く、鋭い爪を受け止める。
「早く!」
背中越しに呼び掛けると、村人はすぐに立ち上がろうとするが、怪我をしたのか、それとも、腰が抜けてしまったのか、立ち上がる事が出来ないでいる。
「ふっ!」
「掴まって!」
逃げ遅れた人を抱えると、その場を離脱し、二人の元へと戻り、村人を託す。さてと、さっさと終わらせないとな。
体勢を崩していたアースグリズリが、体勢を整え、こちらへと向かってくる。強固な岩石で覆われているアースグリズリにダメージを与えるのは、簡単な事じゃないけど、迫る丸太のように太い腕の振りを躱し、懐に入り込む。
アースグリズリは岩石に覆われているが、それでも全部がそうじゃない。木剣で腕肘から先を斬り飛ばす。こういった関節部分の内側は、脆い。それでも、相当な力は必要だけど、俺なら問題はない。
苦痛の悲鳴を上げる、アースグリズリに対して、追撃の手を緩める事はしない。剣を握る手を強めると、それを察したのか、俺の追撃から逃れるべく、体を丸めて、自身を守ろうとする。こうなると、厄介な事この上ないのだが、それなら、それで、こっちは、
「こうするだけだ」
木剣を地面に突き刺すと、反転する魂を指に嵌め、魔力を収束させていく。
「『虚ろなる
収束した魔力で、アースグリズリを吹き飛ばす。あっ、しまった。
村の外まで飛ばされたアースグリズリの体表の岩石は割れている上に、ピクリとも動かない様子を見て、奴を仕留めたと確信した。だけど、俺は目の前の光景を見て、やり過ぎた事を悟った。どう見ても、アースグリズリが暴れた以上に、村を破壊してしまった。しかも、森の木々も巻き込んでしまった。
うん、謝って、直そう。
「バアルさん!」
パールとシバが戻って来る。
「二人とも、ありがとな。大丈夫だったか?」
「ああ。怪我をした人達はいるけど、重傷な人は運が良かったのか、いなかった」
「そっか、何より……二人とも、構えろ」
「えっ?」
「来るぞ」
先ほどのアースグリズリと同じくらいの個体が、動かなくなったアースグリズリに目もくれず森の奥から出現する。
「三人で仕留めるぞ」
「お、おう!」
「は、はい!」
この感じだと、二人はまだアースグリズリと戦った事が無いな。D級が相手をするには、荷が重いから、当然と言えば当然か。
「そんなに緊張しなくていい。いつも通りやれば大丈夫だ」
「だ、誰が緊張なんか…」
「緊張は悪い事じゃない。それだけ、戦いに対して慎重になれるからな、ただ、緊張のし過ぎで本来の能力を発揮出来ない事が駄目だ。でも、そんなに強がれるなら心配は無用だな」
「当たり前だ」
そうそう、いつもの感じにな。
「パールは後方からあいつの動きを制限してくれ。シバ、俺と一緒に仕留めるぞ」
「……判った」
「わ、判りました!」
「先手必勝だ、行くぞ!」
俺とシバが動き出した瞬間、アースグリズリも向かって来る、シバの方に。自分が勝てそうな相手に向かったか。パールが、アースグリズリに魔力の矢を放つが、岩石によって弾かれ、勢いを削ぐ事が出来ない。でも、無闇に撃っているわけじゃない。ダメージの当たりそうな場所を探っている。
そして、アースグリズリが迫っているが、シバは背を向けて逃げるような事はせずに、正面に剣を構えている。そんなシバに勢いそのままに、アースグリズリが振りかぶる。
まるで、そのタイミングを計ったかのように、シバは
しっかりと対処したな、悪くない。
だけど、シバのその一撃は軽く体が切れているだけで、致命傷には程遠い。まだ、そこまでの力には届かない、だけど、それはこれからどうにでもなる。
さて、二人にばかり任せてもいられないな。
ちょっとだけ、大人しくして貰いますか。
「そらっ!」
アースグリズリの後ろを取ると、そのまま背中に強烈な一撃を叩きつける。その一撃でアースグリズリの岩石にひびが入り、巨体はうつ伏せになる。
動かなくなったアースグリズリの目に魔力の矢が突き刺さり、痛みによる悲鳴が轟く。岩石が覆われていない場所を的確に射抜いた。やるな、パール。
「シバ!」
「判ってる!」
暴れるアースグリズリの左右の足を、二人同時に剣よる攻撃を加える。関節部分を的確に狙い、ダメージを与える。しかし、シバの方は関節部分に刃は当たっているが、軽く肉に食い込んでいるだけで、止まってしまった。まずい。
「シバ!」
シバは俺の声に反応して、剣から手を離すと、急いでアースグリズリから離れる。俺は木剣を、アースグリズリの左足に向けて投擲する。剣は、膝に突き刺さり、バランスを崩したアースグリズリは、痛みで仰向けに倒れる。
そして、がら空きになった胴体に魔法をぶち込み、爆ぜた胴体から大量の血が流れ、それに合わせてアースグリズリの動きが完全に沈黙した。
「や、やった……」
「はあ、はあ、くそっ」
パールは倒したアースグリズリを見ながら驚き、シバは肩で息をしながら悔しさを滲ませていた。危なかったが、この経験は、二人にとっていいものになるな、それはそれとして、だ。
俺は、倒したアースグリズリを見る。森の奥は、過去にアースグリズリの目撃が確認されているのは知っていたけど、なんでこいつらは村を襲って来たんだ? アースグリズリは自身の縄張りを持っている。基本的には自分の縄張りに入って来た物には容赦ないが、基本的に活動範囲は自身の縄張りの中だけだ。
その縄張りに、この村は入っていないはずだ。それなのに、この村を襲撃してきた、それも二体も。そして、おそらくだが、今回の襲撃が初めてではない。
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