⑰

「それでは、さっそくですけど、持ってきた魔道具の確認をお願いします」


 持って来たのは、以前話をしていた水筒もそうだが、その他にも何か二人の興味がありそうな物はないいかと思い、色々と持って来た。


 二人は、当初の目的でもあった魔道具の水筒の性能を確認しながら、二人で話合っている。


「これは、いくらぐらいでと考えていますか?」

「そうですね。一つ辺りの単価はこのくらいかと」


 俺は持って来た計算できるんを叩いて出した値段は三千ゼン、その数字をジュラさんへ見せる。原価なんかを考えると、この辺りだろうかという値段だ。


「なるほど。では、三十個いただけますか」

「三十個、ですか」

「はい。とりあえずは、その数でお願いします。それで、在庫が少なくなり次第、随時発注を掛けさせていただきます」


 今回だけでなく、これからの取引も希望してくれている。しかも、最初に十個買ってくれて、その後も無くなり次第発注を掛けてくれる。けど、俺は別に口に出さなくてもいいのだが、どうしても訊かないわけにはいかなかった。


「ジュラさん、その魔道具はこの村で売れるのでしょうか?」


 この村の人はそんなに多くない。村人全員が買ってくれるのだろうか。もしかして、気を遣っているのではと変な気を俺が遣ってしまう。


 そんな俺の言葉に、ジュラさんは少し呆気に取られていると、なるほどと呟く。


「大丈夫ですよ、バアルさん。確かにこの村の規模を考えると、それほど需要はないように思うかもしれませんが、私達の販売の拠点はここですが、ここだけが、ドウヤクの販売場というわけではありません。こう見えて、顔は広い方なんですよ」


 その言葉と表情で、俺は自分のこの気遣いが杞憂である事を思い知った。これは、もしかして、とんでもない人達と契約したのかもしれない。それなら、ここは。


「では、今回はこの提示した金額から、二割を引いた金額で販売させていただきます」

「いいのですか?」

「これからの付き合いを考えれば、このくらいは構いません」

 このドウヤクとは、長い目を見ればこのくらいして、置いても損はない。

「では、この魔道具については、このくらいとして、他に気になった物はありますか?」

「そうですね。商品として販売を考えると、私達の店に置くには、どれもという感じではありますね」

「そうですか」 


 それは、残念だ。でも、ジュラさんの言う通りではある。ドウヤクは茶葉という専門的な商品を扱った店だから、それに関係する商品でないと、置いても意味はない。


「バアルさん、一つよろしいですか?」


 さっきまで、持って来た魔道具を見ていたフェブラさんが、俺に訊いてくる。


「そちらでは、魔道具を開発しているんですよね?」

「えっ、はい」

「それでしたら、こちらから開発の依頼をしても構わないでしょうか?」

「開発の依頼、ですか?」


 まさかの、提案に少し戸惑いが出てしまう。開発の依頼なんて、スエラル国に居た時もなかった事だ。


「はい。実は、二人でよく話し合っているのです。こういった魔道具があれば便利なのにと。ですが、今までそれらの魔道具に出会う事は出来ませんでした。ですから、もういっその事一から造った方が早いのではと思ったんです」

「それって、どんな魔道具なんですか?」

「考えているのは、茶葉を保管する容器などでしょうか」

「容器ですか……」

「はい。当店では販売した茶葉を袋に入れてお渡ししているのですか。やはり、お客様にとってはその茶葉を長く保管したい方もいるのです。ですが、やはり箱に入れたりしても、傷んでしまって、駄目になってしまうのだそうです。それは、私どもも同じです。仕入れた商品は、出来るだけ気を付けて保管していますが、それでも、駄目になるのは早い上に、商品によっては、保管する環境なども違くて、これが大変なのです」

「つまり、魔道具の容器でその環境を出来るだけ維持できるようにする、みたいな感じですか?」

「ええ、湿度や温度などを調節できる物であれば、よりいいのですか」

「そうですね」


 顎を擦りながら考える。確かに、それなら楽に管理する事が出来るし、保存の期間が通常よりも長くなり、お店として助かるし、それに、それが大衆向けの商品として販売されれば、茶葉を買ってくれた人も保管が手軽に出来る事になる。


「一度、持ち帰って、相談してもいいですか?」

「もちろん、急なお願いですから、検討してくれるだけで有難いです」


 まさかの展開ではあるけど、あいつらなら何だか喜んで造ってくれそうな未来が見える。


「では、先ほどの魔道具は、後日発注させて貰います」

「はい。バンクの方に入金はしておきますね」


 さて、とりあえず、何事もなく無事に終わったわけではあるけれど、俺はまだジュラさんに訊かなければいけない事がある。


 懐から封筒を取り出すと、それをテーブルの上へと置く。


「ジュラさん、この手紙に書かれていた。もう一つの本題を聞かせてください」

「判りました。実は……」


 ジュラさんが口にしようとした瞬間、外から大きな音と咆哮が聞こえてきた。今のは、獣の……いや、これは。


「シバ、パール、行くぞ!」


 二人は、その音と咆哮が何なのかを考えていたが、俺の言葉に即座に反応し、付いて来る。

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