⑯

「それじゃあ、ちょっと待っていてくれ」


 俺だけが、店へと向かうと、店の入り口のドアノブに手を掛け引く。店内は、清掃が行き届いており、清潔感あり、明るい。そして、商品棚には、多種多様な茶葉がガラス瓶に入って陳列されている。でも、店内には人の姿は見えない。もしかして、不

在だったかな? いや、だとするなら、入口に鍵ぐらい掛けるはずだよな。


「すいません」


 念のために、店の奥に向かって呼び掛けてみる。すると、店の奥から足音が聞こえてきた。


「お待たせしました……バアルさん?」

「お久しぶりです。フェブラさん」


 犬耳が微かに揺れ、俺の名前を呼ぶのは、獣人の女性でもあり、ジュラさんの奥さんであるフェブラさんだ。だけど、ジュラさんの姿は見えない。


「手紙に書いた通り、来たのですが、ジュラさんはどちらに?」

「主人はちょっと出ているので、ですけど、すぐに戻ると思いますので、こちらへどうぞ」

「判りました」


 フェブラさんに案内されるままに、店の奥へと入っていく。しまった、表にシバたちを待たせている……まあ、長くなるようなら戻って説明しよう。


 店の奥に行くと、右手側に二つ、左手側に一つ、そして、奥へと続く廊下がありそちらにも扉がある。これはこのまま進むと、二人が住んでいる家に続いているんだろう。


 案内されたのは、左手側の部屋で、中に入ると、そこは応接室のような部屋だった。中央に長テーブルとソファが対面に二つ。ここで、来客の対応をしているのが、判った。


「座って待っていてください」


 フェブラさんの言葉に甘えて、俺はソファーへと座ると、フェブラさんも座るのかと思いきや、どこかへと行ってしまうが、すぐに戻って来る。その手には、トレイを持っていて、カップとティーポットが乗っていた。


「最近、新しい茶葉を仕入れてみましたので、良ければ飲んでみてください」

「いいんですか?」

「是非」


 フェブラさんが、カップにお茶を注いでくれる。湯気とともに良い香りが、俺の鼻腔を刺激してくる。おっ、香りが強いタイプのお茶か。


「いただきます」


 カップを持ち、口に含む。香りの強さに反して、とても飲みやすい。味はどちらかと言えば酸味があるけど、うん、美味しい。


「美味しいです」

「良かったです。良ければ、お土産にどうですか?」

「いえ、流石にそこまでは……」

「これからの事を考えれば、構いませんよ」


 なるほど。これからの事、つまり、ウーラオリオギリュシア支部とドウヤクの付き合いという意味でか、どうやら、この店はジュラさんだけでなく、フェブラさんもまた経営者という事か。


 その後も雑談をしていると、


「どうやら、帰って来たみたいです」

「えっ?」


 帰って来たみたいって、俺は辺りに意識を向けると、確かに人の気配を感じるけど、まだこの店の外に居る。物音だって俺には聞こえなかったが、彼女が獣人という事を忘れていた。


 獣人は身命オーラもそうだけど、五感も他の種族に比べて秀でている。おそらく、微かな物音を聞き取ったのだ。


「迎えに行ってきますね」

「はい」


 彼女は立ち上がり、部屋を出て行く。しかし、音だけで、その人物まで特定出来てしまうとは、恐れ入るな。


 しばらく、待っていると、フェブラさんが戻って来た。彼女の後に、この店の主人を連れて。


「お待たせしてしまって申し訳ない、バアルさん」

「いえ、全然待っていません。それに、快復したばかりだというのに、いきなり来たいだなんて連絡をしたのはこちらなので、むしろこちらが申し訳なく思っています」

「来ていただいて、本当に嬉しいです。それに……助かります」

「……」


 パンっと軽く手を叩く音が響く。その音を発したのは、フェブラさんだった。


「お互いに、謝ってばかりでは話が進みませんよ」

「そうですね。早速ですけど、見ますか、魔道具を」

「え、ええ、お願いします」


 少しだけ、どう切り出すべきか、迷っていたから、助かった。断りを入れると、俺は馬車まで、持って来た魔道具を取りに戻る。


「悪いけど、二人とも手伝ってくれるか」


 待っていたシバとパールに魔道具の入った荷物を運んで貰う。戻って来た俺たち、特にシバとパールを見ている二人を見て、そうか、お互いに初めましただった。荷物を運び終わったタイミングを見計らって、


「紹介します。ウーラオリオギリュシア支部に所属している冒険者のシバとパールです」


 俺の紹介に合わせて、二人は頭を下げる。


「ドウヤク店主のジュラです。こっちは私の妻であるフェブラです」

「よろしくお願いします」

「は、はい、よろしくお願いします」


 パールがまた頭を下げる。シバも緊張しているのか、遅れてまた頭を下げる。


「今、お二人の分のお茶も用意するので、お待ちくださいね」

「いえ、そこまでは」


 断ろうとするシバの言葉が最後まで言い切らぬ内に、フェブラさんは消えていた。


「好意に甘えよう。二人とも座って」


 二人は若干戸惑っていたが、俺の両隣に腰を下ろす。そして、すぐにフェブラさんが追加で二つのカップを持って来てくれた。


「どうぞ」


 ティーカップにお茶を注いでくれ、二人に振舞ってくれる。二人は勧められるままにカップに口を付ける。


「うまい」

「う、うん」


 シバとパールは思わすと言った感じで、言葉が漏れる。その言葉を聞いて、フェブラさんは嬉しそうに微笑む。

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