⑬

「それじゃあ、しばらくの間、よろしく」

「はい! 任せてください」

「気を付けてな」


 店の前で、マキュリーとナベリウスが見送りの言葉を掛けてくれる。


「すいませんが、アウロラさんお願いします」

「はい。良い結果をここでお待ちしています」


 アウロラさんもいつもの優しい口調で、送り出してくれる。


 本来であれば、後二人ほど居るはずなのだが、朝が早いという事もあってか、この場には居なかった。別にいいのだが、本当に別にいいのだが。


「バアルさん、馬車に荷物の搬入終わりました」


 どうやら、出発する準備が整ったみたいだ。パールとシバが報せに来てくれる。


「ありがとう。それじゃあ、出発するか」

「二人とも、バアルを頼んだぞ」

「お願いします」


 ナベリウス、マキュリー、それって、逆じゃないか? まあ、護衛依頼をして貰っているわけだから、その言葉は正しくはある。


「任せてください、ナベリウスさん、マキュリーさん。こい……バアルと荷物は全力で守ります」


 シバ、今、俺の事をこいつって言おうとしたか? 


「二人もあまり無茶しないでね」

「アウロラさん、ありがとうございます」


 アウロラさんは、二人の冒険者登録をしたから、知った間柄ではある為か、二人との距離はギルドの中でも近い方なのか、砕けた態度で接している。


「じゃあ、行くか」


 借りた馬車へと乗り込み、俺たちは、ジュラさん達の元へと向かうべく、ローアの街を離れた。


「二人はこれから行く『クロリア』という村は知っているか?」

「いや」

「私も知りません。今回の依頼内容で確認して時に、初めて知りました」


 馬の手綱を握り、馬を操りながら俺は二人に訊くがどうやら二人の答えは知らないだった。


 ギルドで確認した情報によれば、クロリアは、ギルドの支部も置かれておらず、店なども少ししかない村であり、住んでいる人もそう多くない所らしい。余程の理由が無い限りは寄る事も無い位置にあるから、二人が知らなくても、無理はない。


「そんな所ある店と取引するだなんて、お前達に何か得があるのか?」


 対面に座るシバが訊いてくる。


「さあ?」

「さあって…お前」

「確かに商談ではあるけど、今回はあまり損得では動いていないかな」


 それにジュラさんの体調も気になるし、付き合った期間は短いけど、あの人達と過ごした時間は居心地良かったのは事実だ。


「それに、正直俺はあの人達と取引をして損は無いって思っている。本当に、良い店っていうのは場所を選ばすに人気になったりもするからな」


 ドウヤクの近年の売上を見て、驚いたが、ほとんどが黒字で経営をしているとの事だった。その売上がどういった形で挙げられているのかの詳細までは知る事は出来なかったが、アウロラさんによれば、色んな場所に茶番を卸しているから、それではないかという事だった。


 この国の飲食店では、ドウヤクという店は結構知られているみたいで、取引先も多いらしい。それに、ギリュシア以外の国の店とも交流があるみたいだから、それも影響しているのかもしれない。


「そんなものか」


 シバは、背もたれに体重を預けて、窓から外の景色を見る。パールも先ほどから窓の外の景色を見ている。正直、ローアからクロリアまでの道中は、特に危険なモンスターの報告もないから、そこまでの危険性はないが、もしかしたら、あるかもしれないから、警戒だけはしておくか。


 二人が窓の外を見ているのは、景色を楽しんでいるというよりかは、警戒しているという意味合いが強い。しっかりと、護衛としての任を果たそうとしている。まだ、ランクはD級だが、二人なら昇格も時間の問題か。


 その後、モンスターに襲撃されるなんて事が………起こるはずもなく、一日目の夜は、どこかの街などに着く事はないので、野宿という事になった。持って来ていた食料で軽く料理をすると、食を囲む。


 ご飯を食べ終わり、しばし休憩をすると、シバとパールにとっては待ち望んだ時間が来た。


「それじゃあ、さっそく始めるか」


 馬車のある位置から少し離れた場所に、二人の訓練をするのに、良い場所を見つけたから、そこで訓練をする事にした。


 魔法の鞄マジックバッグから、訓練用のゴーレムを取り出す。これは、ベリトとナベリウスが調節してくれたもので、結構細かい所まで強さを調節する事が出来る仕様になっているものだ。


「じゃあ、まずは、D級程度の強さの設定でいくか」


 準備運動も兼ねて、強さを二人のランクに合わせる。自動人形を起動させる。


「行け」


 ゴーレムは、即座に二人へと向かっていき、拳を繰り出すが、その拳をシバは正面から難なく受け止める。


 そして、そのまま剣を滑らせ、懐へと入り込み、すれ違い様に胴体に剣を薙ぐ。ゴーレムの動きが止まる。隙だらけの頭に魔力の矢が突き刺さり、ゴーレムは完全に動きを止める。


 うん、この程度のレベルの相手じゃあ、準備運動にもならないかもしれないか。やはり、この二人はランク以上の力を身に着けている。


「じゃあ、次はC級に合わせるぞ」


 設定を終えて、再起動させる。一つレベルを上げたが、どうなるかだな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る