⑫
「まあ、待て」
こういう時は、ナベリウスが……と思ったが、言葉を発したのは、なんとアスタロトだった。
「最後まで話を聞いていけ。こいつは、基本ふざけていて、信用出来ないかもしれないが、お前たちにとって不利益な事は決してしない」
二人は顔を見合わせると、
「アスタロトさんがそう言うなら」
「最後まで聞きます」
うん、ありがとな。だけど、アスタロト、お前が俺の事をどう思っているのか判っだぞ。覚えておけ。
「実は、ある店と取引をしようって話になっていてな。今度、その店に直接、俺が向かうのだが、その道中の護衛を二人に頼みたいんだ」
「だけど、バアルさんに護衛って必要なんですか?」
まあ、正直に言ってしまえば、俺一人なら護衛が無くても大丈夫であるのだが、
「最近、こういった依頼受けてなかっただろ。それに、店の忙しさにかまけて二人の訓練に付き合ってやれなかったからな。仕事半分、訓練半分って所だな」
「つまり、道中、俺たちに稽古をつけるのか?」
「ああ、そのつもりだ」
ドウヤクがある村は、ローアから馬車で七日ぐらいの距離にある。それなら、その道中は暇なので、護衛の仕事をして貰い、空いた時間で、二人を見てやれる。そんな事を思い付いたので、二人に依頼という形で提案する事にした。
「……判った、受ける。いいよな、パール」
「う、うん。お願いします」
少し悩んでいたみたいだが、二人は了承してくれる。
「ありがとな。ギルドから改めて連絡がいくと思うから、それまで待っていてくれ。ただ、そんな時間は掛からないと思うから、準備は頼む…って言ってもある程度はこっちで準備しているから、心構えとか、装備をしっかりと整えておくぐらいだな」
「判った」
「他に、訊きたい事はあるか?」
「あ、あのバアルさん。私たちに頼んだ理由ってそれだけですか?」
「……ああ」
「なら、いいですけど…」
「今日は、急に呼び出して悪かったな。ゆっくり、休んで、待っていてくれ」
二人が帰った後に、ベリトが俺に訊いてくる。
「本当に良かったの?」
「二人には悪いけど、これもまた稽古って事で、例えバレてもそれで納得して貰おう」
しかし、二人も随分と勘が鋭くなった……いや、危機察知能力が備わってきたというべきか。ベリトが訊いてきた通り、二人にはまだ、秘密にしている事がある。
「まあ、何かあったとしてもバアルが何とかすると言っているから大丈夫だろう」
「そのつもりではいるが、提案してきたのは、ナベリウス、お前だろ」
俺は最初、話すべきかと思ったが、ナベリウスに依頼として出すならば、伏せてみてはどうかと提案された。意外ではあったが、きっとナベリウスなりに、あの二人を成長させる為に提案してきたのだと思う。
「だからこそ、オレも行くと言っているのだが」
「流石にこの店の状況で、俺とナベリウス二人抜けるのは、ちょっとな。大抵の事なら俺に一人で対応出来るし、それにナベリウスが思っている通り、これはあの二人にとっても良い経験になるからこそ、俺も同意したわけだし」
本当なら、ナベリウスにも付いて来て貰えれば盤石なのかもしれないが、それはちょっと難しい。一応、それなりに準備はするし、まずいと思ったら、即二人だけでも安全を確保するように動くつもりだ。
「まあ、こいつが一緒に居るんだ、心配はいらん」
アスタロトが本を読みながら、この話を終わらせる。ベリトもナベリウスもそれ以上は言わなかった。
俺は、視線をある物へと向ける。それは、白い封筒だ。その白い封筒の中身こそ、シバとパールに話をしていない事が書かれている物だ。その封筒を仕舞うと、残っている仕事を片付けるべく、再度計算できるんで計算を再開した。
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