⑪

「ありがとうございました」


 最後のお客様を見送ると、今日のウーラオリオギリュシア支部は閉店となった。今日も、相変わらずの忙しさだったが、今日も無事に乗り切る事が出来た。


「今日もお疲れ様。掃除したら、今日は終わりだ」 


 簡単に店内の掃除をして、みなで二階へと上がる。


「アウロラさん、どうでした?」


 みんなで、仕事終わりのお茶を飲みながら、アウロラさんに今日の感想を訊く。見る限りは、完璧に仕事をこなしていたけど。


「そうですね。こういった事には自身があったんですけど、やはり、ギルドに来る方々とは客層が違っているので、大変ですね。改めて、この仕事の大変さと難しさを学んだ気がします」

「いえいえ、充分過ぎるほどでしたよ」


 これは世辞などではなく、心の底から出た本音である。


「私もとても良かったと思います! 途中から、僕が教える事なんて何もありませんでしたから」

「ああ。正直、安心して任せられたから、オレ達も働きやすかったぞ」


 この店の二大巨頭からも、絶賛される。これなら、安心して任せられそうだ。


「うん、判る」

「ああ、最初から私は判っていたがな」


 さて、何か言っている二人は置いておくとしよう、うん。


「アウロラさん、お疲れ様でした。それでは、申し訳ありませんが、しばらくの間は店をお願いします」

「はい、よろしくお願いします」


 丁寧なお辞儀をして、アウロラさん達は帰っていった。後に残ったのは、俺とベリト、ナベリウスにアスタロトのいつものメンバーだった。


 ベリトは何やら、ナベリウスと一緒に図面のような物を見ては、あーだこーだと会話しており、アスタロトはソファーに座って、昼間に読めなかった本を読んでいる。俺は、先日貰った取引相手の書類を見つつ、ここに来るように声を掛けている人物たちを待っていた。


 そろそろ、来る頃だと思うんだが……。


 そんな事を思っていると、誰かが店に入って来る気配がしたかと思うと、階段を上り、俺達の元へと向かって来る足音がする。


「お疲れ」


 上がって来た人物たちに労いの言葉を掛ける。


「ああ」

「ちょっと、シバ! お、お疲れ様です」


 装備の類を着ているという事は、依頼か何かの帰りだったか。店の手伝いもして貰っているのに、しっかりと依頼までしてくれるのは偉い。


「依頼が帰りだよな。報告書があるなら、今、確定書を出すがどうする?」

「あっ、それじゃあ、お願いします」


 パールは、ギルドから発行された報告書を二枚渡してくる。うん、二枚?


「今日の依頼は、二つもこなしたのか?」

「ああ……とは言っても、雑用だけどな」


 確かに、報告書に記載されている依頼内容は、どれも雑用ばかりだ。用水路の掃除に、素材の採取か。


「まあ、大した依頼が無かったから、しょうがなくだ」


 シバとしては、もっと大きな依頼をこなしたいのだろうけど、ここ最近、ローアで活動する冒険者も増えて来たから、人気な依頼は倍率が高いらしい。その代わり、こういった雑用系をしたがる連中が少ないから、いつも余っている。今回は、それを受注したらしい。


 以前、二人には魔道具の宣伝という名目で、こういった依頼を率先して受けさせていたが、正式にウーラオリオの所属となったので、二人に依頼は任せている。


「何を言う。こういった雑用も立派な依頼だ。依頼に大きいも小さいもない。それをしっかりとこなしたんだ、もっと誇るべきだぞ」

「ナベリウスの言う通り。こういった積み重ねが、大切だ。その結果、お前たち二人の評判は良い。冒険者にとって好印象ってのは重要だからな」


 実際、ギルドや依頼主からの評判は上々だ。しかし、未だに、ナベリウスが褒めると、照れるくせに、俺が褒めてもそれを素直に受けないんだ、シバは。パールは素直に受け取ってくれるというのに。そんな二人に対して、計算が終わった確定書を見せる、


 シバはそれを確認すると、サインする。


「じゃあ、明日、バンクに持っていくから、入金はその後すぐに行われるから、確認してくれ」

「ありがとうございます」


 お礼を言うパールとは対照的に、シバは腕を組んで、何かを待っている。そうだった、俺がこの二人を呼び出したんだったな。まあ、焦らす必要も無いから、言ってもいいだろう。


「実はな、二人にクランから依頼を出したいんだ」

「クランからって……ウーラオリオギリュシア支部からって事か?」

「そう。まあ、正式に依頼としてギルドを通して出すから、報酬も出るぞ」


 まあ、所属しているクランからだから、報酬は少し低いけど。


「……それで、依頼内容は?」


 まあ、気になるよな。今まではお願いみたいな感じだったから。それが正式な依頼ともなれば気になるよな。


「護衛依頼だ」

「護衛依頼、ですか? いったい誰の?」

「俺だな」


 そう答えた瞬間、二人は黙ってしまう。どうしたんだ? 俺は、二人の表情を伺う。


「帰る」

「帰ります」


 二人がぷいっと回れ右をして、帰ろうとするのを、俺は引き止める。


「いやいや、待て待て」

「誰が誰を護衛しろって?」

「だから、二人が、俺を」

「帰ります」


 いつもは、素直に俺の言葉に耳を傾けてくれるパールでさえ、俺に対する態度。いったい、何が問題だというのだ!

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