⑩
「1000ゼンのお返しになります。はい、領収書ですね。宛名はいかがなさいますか?」
完璧な接客をしているアウロラさん。開店したばかりの時は、マキュリーが付いていたが、すぐに問題が無いと判断した、マキュリーが俺に報告に来てくれたので、開始すぐに独り立ちした。
売り場は、アウロラさんが入ってくれたおかげで、安心感が増した。これなら、俺が抜けても問題はないな。というか、俺が居ても居てなくても、大差ないのではないだろうか?
「有望な新人が入ったね」
「ああ、教える事は何も無いな」
ベリトとアスタロトが、アウロラさんの働きぶりを見て、腕を組みながら何か言っている。
「お前達も、あれくらい手を動かそうな」
俺の発言に、ベリトとアスタロトはやれやれという素振りをする。
「こういうのは適材適所だよ」
「その通り」
「よし、判った。お前らは俺と一緒に在庫の確認をしながら奥で魔道具の整理をす
るぞ」
売り場はとりあえず、大丈夫なので、二人を引きずりながら、店の奥へと入っていく。頼んでいた魔道具が本部から届いたので、その検品も会わせて行わないといけない。
「ねぇ、バアル。あのギルドの人が来たから、ウーラオリオからは増員は無いって事
?」
届いた魔道具に不具合が無いかを確認しながら、ベリトが訊いてくる。
「いや、近い内に増員は送りたいとはプルーティアからの手紙で返信があったけど、まだ誰をこっちに送るかを決めかねているそうだ」
「珍しいね。プルーティアなら、即断即決しそうなのに」
「うーん、詳しい事は判らないんだけど、向こうでもちょっとゴタゴタしているらしい。だから、こっちに増員を寄越すのはもう少し掛かるかもって話」
「ふーん、それじゃあ、あたしが頼んでいた物ももうちょっと掛かるかな」
「何か頼んでいたのか?」
「うん、ちょっとね」
手紙にはそのゴタゴタについては、特に書かれていなかったけど、お前が心配しなくても大丈夫だって書いてあったから、きっと解決は自分達でするだろう。今度帰った時にでも教えて貰うとしよう。
しかし、ベリトの頼んだ物も気になるな。もしかして、前々からコソコソと隠れて何かを造っている新しい魔道具とかだったりするのだろうか。これは、期待が高まってしまうな!
「プルーティアか。久しく会っていなかったけど、まさかクランのトップになっているだなんてな」
「アスタロトは、プルーティアと仲が良いのか?」
アークの時にも、プルーティアとは何度か共同で依頼をした事はあるが、二人が会話をしている所は見た事がない。
「仲が良いかどうかと訊かれれば、どうなんだろうな。だが、昔のあいつからは想像出来ないなと思っただけだ」
「それは、そうかもな」
プルーティアがまだ冒険者として、前線に立っていた時は、孤高というイメージだったな。実際、S級に上がった時、プルーティアはソロだった。その後、ある人物と組んでその地位を不動のものとしていたけど、俺もウーラオリオを立ち上げたって聞いた時は驚いたが、今となっては、あいつにはその素質が充分にあったと判る。
「そこで、まさか仲間が二人も世話になっているだなんて、想像もしていなかったがな」
「仕方ないだろ。冒険者を辞めて、流石に貯金だけで生活していくのにも、限界があったんだから」
「あたしは、純粋にプルーティアから声を掛けられたからだけど」
「えっ、そうなの?」
俺は、ベリトが働いているって聞いて、もしかしてと思って行ったら、職員の募集があったから受けたけど、まさか、直接声を掛けられていたなんて。
「最初は、冒険者としてって話だったけど、あたしが断ったら、魔道具を自由に好きなだけ造っていいって言われたから、入ったよね」
「うん、お前らしいな」
プルーティア、よく判っているな。
「しかし、不思議なもんだ」
「何が?」
「私は、こんなに早くお前達と再会するとは思わなかった。それこそ、会うのはお前達の最期の時ぐらいだと思っていた」
「まあ、そうかもな」
実際、解散してから率先して会いに行こうとは考えなかった。それは、俺だけでは無いだろう。
「だから、今、結構楽しいんだ、私は」
その言葉に、俺とベリトは言葉が出て来ない。
「なんだ、その珍妙な顔は?」
「いや」
「だって」
俺とベリトはお互いに顔を合わせる。
「「アスタロトの口から、そんな言葉が出るなんて思わなくて」」
「……知らん」
アスタロトはそっぽを向くと、魔道具を持って売り場の方に戻っていってしまった。後に残った俺とベリトは恐らくだが、とんでもなく気持ち悪い顔をしていたに違いない。
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