⑧

「バアルさんは行きつけのお店はあるんですか?」


 そういえば、マキュリーをあそこに連れて行った事はまだなかったっけ。


「色々食べてはみているけど、最近だとコトリって店にしょっちゅう顔を出しているかな」

「コトリ……あそこは良い所です。流石、バアル君」

「ケイオン代表行った事があるんですか?」

「もちろんです。あそこの料理は絶品ですから」


 意外………でもないのか。だって、あそこの店は魔道兵団の団長が通っているぐらいだ。だとすると、コトリって本当はすごいお店だったりするのか?


「それに個室もあるから、便利なのよね」


 マイアさんがさらにコトリの良い所を言う。確かに、個室があるのは大きい。特にケイオン代表とかマイアさんなんかは、個室がある所はいい。


「僕も、あそこの雰囲気好きなんです」


 そうか、マキュリーも行った事があるのか、今度ギリュシア支部で行くか。


「では、次はそこで食事会をしましょう」


 それは、どうだろう……でも、大丈夫か。むしろ、俺が変に構えなくていいから、そっちが良かったりする。


「今度は、ウーラオリオの方々も是非」

「ははは、そ、そうですね」


 それは、ちょっと遠慮しておきたいかもしれない。ナベリウスだけなら、いいけど。


「そうね。ベリトさんともまだ会えてないから、それはいい案かもしれないわ、あなた」


 以前、マイアさんがベリトに会いたいって言っていたけど、まだ実現には至っていない。結局、まだその話も本人には出来てない。落ち着いたら、ベリトに話をしてみよう。


「ですけど、今、そちらは忙しいと思うので、落ち着いたら、また機会を設けましょう」

「今回はありがとうございます。おかげで、忙しくさせて貰っています」

「それこそ、こちらがお礼を言う立場ですよ。ウーラオリオの魔道具の取り扱いを初めてから、それを求めて来店されるお客様が、テローゾの商品も合わせて購入していくので、結果として双方にメリットのある取引になっています」

「ウーラオリオの魔道具がみんなに知って貰えて嬉しいです」

「これも、マキュリーが、最初のお得意様になってくれたおかげだ。ありがとう」

「い、いえ、僕は」


 照れて、顔を伏せてしまうマキュリー。今と違って全然人が居なかった時に、ウーラオリオの魔道具を気に入って、買ってまでくれた。そう思うと、マキュリーが居なければ、ここまでにはなっていない可能性があるって考えると、幸運を運んでくる妖精だったわけだな、マキュリーは。


「バアル君」

「ただの感謝しかありませんよ、本当に」


 急に代表の声色が変わったので、急いで言い訳を口にする。


「私しては、歓迎なんですけどね」

「ははは」


 マイアさんが揶揄っているのか、本気なのか判らない事を口にするから、怖い。


「そ、そういえば、サベリアで、あそこの長であるキリシ様が最近話題ですね」


 この空気を変えたくて、俺はパッと頭の中に出て来た話題を口にする。


「あのモンスターパレードによる襲撃での行動、さらに、その後に行った対応を考えれば、当然とも言えます」

「あんな事があったのに、少し意外だと思ってもしまいましけど」

「意外ですか?」


 マイアさんの言葉に、訊かずにはいられなかった。


「バアルさんは、あの方が王家の方だという事は御存知ですか?」

「はい」


 オリアスさんからその事については聞いていた。


「彼は、王位継承権第二位の立場に居るのですが、元々は彼を次代の王にと推す声が多かったんです。そして、本人もそのつもりであったと思います。実際、彼が継承権一位でした」

「では、あの方は元々第一の立場に居たんですか?」

「はい。ですが、今の陛下が自分の後継をすでに指名しているのです。その結果、彼は第二位の立場になりました。その時の彼の様子は表にこそ出しはしなかったでしょうけど、思う所があったと思います。それから、少し経ってサベリアの長となったので、何かあるのではと余計に勘ぐりをしていたのですが……」

「マイア。滅多な事を言う物じゃない」

「そうね、ごめんなさい」


 オリアスさんから、王位継承権第二位という事は聞いていたけど、その実はそんな事があったのか。でも、指名された人物っていったいどんな人なんだ? オリアスさんも絶賛していたし。


「ちなみにですけど、その陛下に指名された方というのは、どんな人物なんですか?」


 俺の質問に、代表は顎に手を置くと、少し考えると、言葉にする。


「一言で表すのであれば、上に立つべくして立つ人物でしょうか」

「それは、王家の人間だからって事ではなくて?」

「例え、王家の人間でなくても、私はそう評すると思います。彼女、クイン王女は、そういった資質を持つ方です」


 王女という事は、現陛下のご息女か。しかし、代表がそう言うという事は、相当にカリスマ性が高い人物なのか。確かに、オリアスさんの言葉や態度から考えると、その言葉は合う。


「私も一度しかお会いした事はありませんが、あの方は国全体の在り方を何手先も見通して考えています。そして、既存の考えに囚われない、柔軟な考えも持っていて、立場で人を見たりはしない方です」

「そこまで、おっしゃるという事は、本当に凄い方なんですね。一度、会ってみたい気もします」

「あの方も相当に忙しい身分なので、難しいかもしれないですね。でも、バアルさんなら、ひょんな事であの方を出逢う事になるかもしれない。私達と巡り逢ったように」

「そんな幸運は、中々無いとは思いますけど」


 代表達に出会えただけでも、幸運な事なのに、それがずっと続くような事は無いだろう。


「判りませんよ。クイン王女は、マキュリーと同年代なので、ひょっとしたらがあるかもしれませんよ」

「えっ!」


 マキュリーと同じ年で次に王に指名されたって事かよ! この国の若い子ってみんな才能溢れる子しかいないというのか。


「ちょっと待ってください。現陛下は、どこか体調が悪いとか」

「いえ」

「それなのに、すでに自身の後継を指名したんですか。しかも、そんな若い王女に」

「それだけ、クイン王女の才を陛下が買っている、そういう事です。それに、優秀であれば、年齢など関係ありません」


 まあ、無くはないのかもしれないが、それでも、ギリュシアという国の規模を考えると、それは早計ではないかと思ってしまう。だけど、これがこの国の考え方、在り様なのかもしれない。


 少しだけ、そのクイン王女に会ってみたい。そう思う自分が居た。


「そうですね。よく、考えてみればマキュリーもウーラオリオギリュシア支部の要でもありますから、不思議ではないんですね」

「バアル君、それはつまり。このままウーラオリオギリュシア支部でマキュリーに任せるって事でいいのかな?」


 し、しまった! 迂闊な事を口にしてしまった。ケイオン代表の圧がとんでもない事になっている。は、早く、弁解をしなければ。


「それもありじゃないかしら。そうなれば、今後色々とやりやす………取引がスムーズにいくでしょうし」


 マイアさん、今、不穏な事を口にしようとしていませんでしたか? 


「僕は、バアルさんが良ければ出来るだけあそこに居たいんですけど……」


 うん、ありがとな、こっちとしても長く居てくれるだけでありがたいんだけど、その言葉に反応して。ケイオン代表の圧がどんどん強くなっていく。マイアさんは楽しそうにこちらを見ていた。


 あー、これ、どうしたらいいんだ、誰か、教えてくれ!

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