⑥
休日、二日目はこれまた予定が入っていた。俺はある店の前に来ていた。
「ここで、合っているよな」
指定された場所と合っているかどうかを何度も確認する。店の場所も舐めも合っているから、間違いないが………なんだか場違い感が凄い。
「お待ちしておりました」
店の中に入ると、燕尾服を着た男性に名前とここで約束している旨を説明すると、完璧なお辞儀とともに、案内される。
流石は、ローアでも有名な高級店なだけはある。オアシスと同等ぐらいの敷居の高さで。正直、気後れしてしまうほどだ。案内されながら店内を観察してみるが、全部が個室な上それぞれに結界魔法が張られている。それに、見た事もあない魔道具。立派な装飾、高そうな壺や絵画もある。店内の設備だけでいったいいくら掛るんだ、これ?
「こちらになります」
「ありがとうございます」
案内されたドアを開けてくれ、中へ入ると、俺をここへと誘った相手は円卓に座っていた。
「お待たせして申し訳ございません」
「私達も今、来たから問題はありませんよ」
テローゾ代表のケイオン代表は、そう言ってくれるが、約束よりも少しだけ早く来たのに、もう着いているとは、今度からはもっと早く来なければ。しかし、いつも会う時とは違う場所であるのに、やはり威厳があるな、この方は。
「バアルさん、お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
「お久しぶりです、マイアさん」
テローゾ副代表であり、ケイオン代表の奥方でもあるマイアさんとは、本当に久しぶりに会う。この方も、副代表という立場にあるのに、マキュリーから話を聞く限り、方々へと飛び回っているらしく。俺が、テローゾ本社へ行っても、留守が多く、すれ違っている。
「こんにちは、バアルさん。待ってました!」
「待たせて、ごめんな、マキュリー」
二人の子どもでもあり、ウチの看板娘でもあるマキュリーがおいつも通りに挨拶をしてくれる。
そう、俺は家族での食事会にお誘いを受けたのである。最初、断ろうかとも思ったが、ケイオン代表から是非にと言われ、断るという選択肢が俺の中で無くなった。正直、緊張で大丈夫かと思ったが、マキュリーが居てくれるのは、大きい。
もし、この二人とだけだったら、なんとも言えない緊張できっと料理を楽しむなんて事は出来なかっただろう。
ケイオン代表が、軽く手を挙げると、ドア前に控えていたさっきの男性が、一礼すると、部屋を出て行く。
「今回は、お誘いいただいてありがとうございます」
「いえいえ、むしろ遅いくらいですよ。娘がお世話になっていますから。本当はもっと早くにこういう場を設けたかったのですけど、こちらも色々と忙しくて……」
マイアさんが申し訳なそうに言うが、テローゾの代表と副代表ともなれば、忙しくて当たり前だ。今日のこの時間を捻出するだけでも、どれだけの仕事量をこなしたのか……。
「ペルの容態は……」
「彼なら、もう現場復帰しています。病み上がりなので、無理をしない範囲でとは言っていますが、如何せん、本人が休んでいた分を取り戻すと言って、頑張り過ぎているので、そちらの方が心配です」
「らしいですね」
ケイオン代表がため息交じりにペルの近況を語ってくれる。正直、ペルの性格を考えれば、想像に難くない。結構な重傷だって聞いていたのに、ある意味であいつも常人じゃないな。
「バアルさんは大丈夫でしたか?」
「はい。運が良くて、怪我とかはしていません」
マイアさんの心配してくれる言葉に、俺は言葉を返す。嘘は言っていない。
「バアル君なら、あの程度の襲撃わけがない。そうですよね?」
「ははは、代表買い被り過ぎですよ。魔道兵団の方々のおかげです」
「……そういう事にしておきましょうか」
この人達には、俺達の正体がバレているのでは? うーん、結構目立つ事をしているからな、少し自重しなくては……。
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