⑤

「ドウヤクのお店がある町はこの首都から離れていますからね。今のままだと、店を空ける事が出来なくて、行く事が出来ないということですね」

「はい。出来れば、いくら快復したとはいえ病み上がりなので、こっちから伺った方が良いと思っていて……でも、今の状況では、店を離れるのは、少し不安なんです」


 こんなに忙しいのに、店を離れて行くなんて状況ではない。忙しいのは、嬉しい事なんだけど。だけど、それを理由に先延ばしにしていい案件でもない。


 それに、取引とかを抜きにしても、友人として彼を見舞いたいと思っている自分が居るから、これは俺のわがままだ。だから、余計に店を空けるわけにはいかなかった。


「バアルさん」


 アウロラさんの落ち着いた声で名前を呼ばれる。


「そういう、わがままは必要なわがままです」


 それだけ言うと、アウロラさんは席を立つとどこかへと言ってしまう。えっ、どうしたんだろう?


 しばらく待っていると、アウロラさんが戻って来たかと思うと、何も言わずに、また目の前に座る。


「というわけで、しばらくの間ウーラオリオギリュシア支部のお手伝いに行く事になりました」


 うん? 何だが知らない間に話が進んでいるぞ。


「あ、あの、何がどういうわけで、話が進んでいるのですか?」


 あまりの困惑に言葉が上手く出て来ないんだけど。


「ちょっと上司と相談してきて、一時的にギルドから離れて、ウーラオリオギリュシア支部の仕事を手伝う事になりました」

「いやいや、駄目でしょ」

「どうしてですか?」


 どうしてって、そりゃ………問題はないのか、もしかして。


「もちろん、ギルドでの私が請け負っている業務はしっかりと引き継ぎを行います。それに、長期的にではなく、短期間でという条件です」

「短期間って事は……」

「はい。その間に、ドウヤクさんとの取引の話をしてきていただければ」


 つまり、俺が抜ける代わりに、アウロラさんが穴埋めをしてくれるというわけか。アウロラさんには、店の事を色々と相談しているし、取り扱っている魔道具についても知っているから、何も問題はない。それどころか、最高の人材だ。


「しかし、助かりますけど、よく許可が出ましたね」

「ウーラオリオギリュシア支部は今では、ギルド内でも評価が上がってきているんです。設立してまだそんなに日が経っていないのにも関わらず、あのテローゾと取引する事 が出来ている、それだけで、すごい事ですから。なので、案外許可を取るのは簡単なんです。それに、興味もありましたから」

「興味ですか?」

「はい。いつも、バアルさんから話で聞いている方達と会ってみたかったので」

「は、はあ」


 マキュリーと、ナベリウスは良いとしても、ベリトとアスタロトに会ったら、アウロラさんはどんな反応をするのだろうか?


「それでは、引継ぎが終わりましたら、またご連絡します。それまでに、バアルさんも準備をしていてください」

「判りました」


 でも、これはこれで、助かる話ではあるので、こっちとしては断る理由はない。大手を振ってジュラさん達の元へと向かうとしよう。


 その後は、アウロラさんの持って来た紙の山を、全部ではないが、確認してみた。望んでいる相手は、このローアで店を構えているクランや商会、俺でも名前ぐらいは聞いた事のある個人で活動している人も居た。後半になっていくと、地方で経営している所が多くなって、申し訳ないが、俺が認知していない所が多くなっていった。 結局、ギルドの閉館時間ギリギリまで紙の山と格闘する事になった。


 アウロラさんに礼を言って、彼女が纏めてくれたリストだけ持ち帰り、こっちも参考にしながら、決めていこう。こうして、俺の二日ある休日の休みの内の一日は、終わったのであった。


よく考えたら休日ではなかったな。 

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