④

「あの、バアルさん、こちらを見ていただけますか?」


 山に圧倒されていた俺に、アウロラさんが違う紙の束を渡してくれる。何だろう、これは。受け取った俺は、それを一枚ずつ見ていく。すると、その内容に驚いた。


「これって……」

「差し出がましいかとも思ったのですが、私から見て、ウーラオリオギリュシア支部にとって良いと思える商会やクランなどをリストアップさせていただきました」


 そこに書かれていたのは、その商会やクランの詳細な情報だった。そして、最後の方には、アウロラさんのアドバイスのような一言が添えられていた。これだけの数を全部見て、纏めてくれたのか。


「ありがとうございます。とても、助かります」


 実際、これだけの数を見て精査するとなると、とんでもない時間が掛かる。ただでさえ、ウチは人が足りていない。これは、本当に助かる。


「少しでもお役に立てたのなら、良かったです。私としては、やっとバアルさんのお店が認められて嬉しかったので、少しでも力になりたいと思っていたんです」

「全然、少しどころではないですよ。大助かりです。さっそく、これを元に進めていきたいと思います」


 また、忙しくなるな、これは。だけど、この機会を逃さない手はない。となると、やはり重要になってくるのは……。


「アウロラさん、募集を掛けていた件はどうでしょうか?」


 人手不足をどうにかしないといけない。


「そう、ですね」


 アウロラさんからは、歯切れの悪い返事が返ってくる。募集に当たっては、最初にアウロラさんに見て貰って、そこでアウロラさんが問題なしと判断すれば、俺とアウロラさんの二人で面談するという形を取って貰っている。


 アウロラさんに負担を掛けてしまうが、そういった事をした事が無かったので、ギルドで様々な人を見てきたであろうアウロラさんの力を借りる事にした。ここでも、彼女は嫌な顔を一つせずに請け負ってくれた。そんな彼女のこの反応から察すると、どうやらいい人は引っ掛からなかったって事か。


「募集を見て、人は集まってくれるのですが、どうにも癖が強いと言いますか、バアルさん達とはどうも合わなさそうな方達ばかりで……」

「そうですか。すいません、面倒事を頼んでしまって」

「いえ、クランの発展を支えるのもまたギルドの務めですから。むしろ、これからの時に大変なのはバアルさん達の方ですよね」

「一応、スエラル国の本部には増員の話はしているので、近日中にでも返事が返ってくるかと思います。それを待ってから、また対策を考えましょう」

「もしもの時は、ギルドから臨時で人を入れる事も可能なので、その際はおっしゃってください」

「ありがとうございます」


 もうちょっとだけ、今のメンバーで回すしかないか。臨時と言えば、テローゾからも人手が足りなかったら、声を掛けてくれと、先日魔道具の事で本社に行った時に言われたっけ。


 おそらく、マキュリー経由で、今のウーラオリオギリュシア支部の内情を聞いているから、言って来てくれたのだと思う。もしくは、マキュリーの超過労務を少しでも、軽減する為なのかもしれない。それについては申し訳ないが、あまりにもマキュリーが優秀過ぎるから、ついつい頼り過ぎてしまう、俺に問題がある。


 ケイオン代表の事だから、後者の理由であっても不思議ではない。


「はあ、これだとまだ先になりそうだな……」

「何がですか?」


 心の中で言葉にしたつもりが、口に出ていてしまったのか、アウロラさんが訊き返してくる。ちょっと、恥ずかしい。


「実は、サベリア市場マーケットで知り合いになった『ドウヤク』という店を経営している方々と仲良くなりまして、そこに魔道具を卸す話になったんです。結局、あんな事があったので、それ以上の話は出来なかったんです。でも、この前、その方々から手紙が来て、市場での事件で負った怪我も快復したとの手紙を貰ったんです」

「ドウヤクと言えば、茶葉の販売を主商品としているお店ですね。そういえば、市場でお隣同士でしたね。まさか、そんな約束までしているなんて、すごいですね」

「いや、本当に偶々だったんです。向こうが初めての俺に優しくしてくれて、それで話が弾んで」

「なるほど。だから、さっきの言葉なんですね」


 今までの会話だけで、アウロラさんはさっきの独り言の意味を理解した。

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