⑪
「ナベリウスまで付いて来なくても良かったのに」
「なに、以前教えて頃よりどのくらい出来るようになったのか、気になってな」
「俺としては、有難いけどから、構わないよ」
シバとパールは、このローアで冒険者になった時に、ナベリウスと一応アスタロトに色々と教えて貰っていた。それなら、二人の基礎を作った人間と一緒に見て貰えるなら、これほど心強いものはない。店番は、暇にしているアスタロトに任せてきた……働きはするだろう。
今、俺達が居るのはギルドが管理している建物の一つで、冒険者などが模擬試合や訓練などに用いる訓練場の一つを借りる事にした。
大きな街にあるギルドには、こういった施設があり、ゼンを払えば、決められた時間借りる事が出来る。ペラルゴンにもあるけど、申請する冒険者が多すぎて予約制で結構確保するのが難しいんだよな。だから、ウーラオリオは建物を買って、クラン専用の施設をいくつか持っている。
それに比べて、こっちはガラガラだし、料金も向こうより安くて、同じ料金で倍の時間借りられた。
「そ、それで、まずは何をすれば……」
俺だけかと思ったら、まさかのナベリウスも一緒に教えてくれるとなったので、緊張している。
「パールは基本的に単独でというよりかは、誰かを活かせるような動きの経験を積んだ方が良いと俺は思っているから、そこを重点的に練習しようと思う」
「は、はい」
「だからと言って、パール自身の戦闘能力を伸ばさないわけでもないから、安心してくれ」
せっかくなら、パール自身も強くなって貰う。
「あ、あの、質問良いですか?」
「いいぞ」
「バアルさんが以前戦っていた時に、力が一時的にもの凄く上がっていた気がするんですけど、あれはどうやっているんですか?」
もしかして、
「あれは、身命を特定の場所に集中して強化しているんだよ」
「身命を、特定の場所に?」
「身命は、個人差はあるけど、纏えば身体能力を向上させる。イメージとしては、百を体全体に分割して万遍なく上げる感じだな。でも、部分強化は、特定の場所…例えば、腕だけに百を集中させたりするわけだ。すると」
そこまで、言うとパールは考え込むと、すぐに俺が言わんとする事に気が付いたみたいだ。
「百の上昇がすべて乗るから、普通に纏うよりも強化される」
「そういう事」
当然、体を鍛えれば鍛えるだけ身命を纏った時の向上もあがるので、体を鍛えるのは、身命を扱う者にとっては必要な事だ。それに加えて、身命の質は、そういった事でも上がる。けど、量などは人それぞれによって決まっているから、こればかりはどうしようもない。
「でも、部分的に強化するなんて……よく出来ましたね」
「それなりに苦労はしたけどな」
「じゃ、じゃあ、どうして?」
正直、身命をそんな緻密にコントロールするなんて面倒くさい事するより、体を鍛えた方がいいし、なんなら武器や魔道具で補った方が早い。考えても、実行に移すやつはいないだろう。
「それはな、パール。どうしても、こいつにも負けたくない相手がいたんだ」
ナベリウスが俺を揶揄うかのように言う。くっ、実際の通りだけら、あれだけど、そう言われると恥ずかしい。
「負けたくない相手ですか?」
「ああ。バアルとそいつは事あるごとに競争していてたのだが、向こうの方が強くてな。そいつに勝つ為に、身命の部分強化なんて事をやり始めた。そして、バアルは見事に会得して、対等に張り合えるようになったわけだ」
「な、なるほど」
まあ別に、部分強化なんか無くても俺の方が強いけどな!
「まあ、バアルのようなやり方は普通の人間はしないし、する必要もない。今では魔道兵器なんて物もあるぐらいだ。パールは順当に訓練していくのがいいだろう」
待ってくれ。それだと、なんだか俺がおかしいみたいな言い方じゃないか?
「……判りました」
「じゃあ、まずは準備運動がてら、こいつに矢を当ててくれ」
ギルドから借りてきた訓練用ゴーレムを起動させる。俺と同じくらいの身長のゴーレムを起動させる。
こいつは、ゴーレムの強さ調節出来るようになっている。なので、その人に合わせて的確に訓練が出来るようになっている。
しかし、これ凄いな。スエラル国にもぜひ導入して欲しい事この上ない。これなら、モンスター相手の訓練なんて必要が無くなる。それでも、実践は必要だが。
少なくとも、命の危険があまりない状態で出来るのは大きいのは間違いない。ちなみに、今回のゴーレムの設定は、D級に合わせている。
「攻撃の命令はしていない。回避行動だけをするから、こいつに矢を当てみろ」
「はい!」
パールは弓を構える。
「よし、始めるぞ」
ゴーレムが縦横無尽に動き出す。動き自体はそこまで速くない。パールもしっかりと捉え、弦を引きながら照準を合わせている。
そして、弦から指を離すと、魔力の矢は一直線にゴーレムへと向かい、突き刺さる。その後も、パールは一射も外す事なく、矢を当てていく。これは、驚いたな。
「ほう、よく当てる」
「ああ。ゴーレムのレベルはD級だけど、それでもあそこまで当てるなんて大したものだ」
「元々、あの娘に弓を勧めたのはオレだ」
「そうなのか?」
ナベリウスは腕を組みながら、その時の事話してくれる。
「当時、シバと同じく剣を使っていたのだが、近接での戦闘にどこか怯えではないが、躊躇が感じられた」
「まあ、女の子で近接を請け負うのは、適正もそうだけど、覚悟がいるからな」
そう思うと、アストレイアやあいつは…………適正があり過ぎるから、同じ目線で考えるのは止めよう。
「最初は、慣れない武器で戸惑う事もあったが、オレ達がこの街を離れる頃には、しっかりと扱えるレベルまでになっていた。それからも、鍛錬を欠かしてはいなかったのは、今のこの光景を見れば判る」
「だな」
パールをいう冒険者を、俺はまだ、判っていなかったのかもしれないな。
「よし、そのくらいでいいぞ」
「は、はい!」
ゴーレムに停止命令を出し、止める。
「次は、もう一体に増やす。制限時間内に、一体につき五本、合計で十本矢を当てる事。最初は、回避行動しかとらせない」
「判りました。お願いします」
もう一体のゴーレムも起動させ、二体に命令を出すと、それぞれが動き始める。制限時間を設けた上で、どの程度で当てる事が出来るのか、見せて貰おうかな。
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