⑩
先日の一件から、俺はテローゾに取り扱って貰う為のリストを作りつつ、どの魔道具を推すかを考えていた。テローゾは、多種多様な魔道具を取り扱っている。その事を考えると、やはり似たような物ではなく、ウチ独自の個性のある物がいいのか考えるが、奇をてらい過ぎてしまうのもどうかと思ってしまう。
はっきり言ってしまえば、迷いまくりだった。
「どうした?」
魔道具の補充をしてくれていたナベリウスが、カウンターで唸っている俺に声を掛けてくれる。
「ああ、ナベリウス。実はな……」
俺は、テローゾからの提案された話をナベリウスにする。
「それで、さっきから魔道具を見ながら唸っていたわけか」
「こうして見ると、何を推した方がいいのか判らなくてな。ナベリウス、手伝ってくれないか?」
「構わないぞ」
流石、頼りになる男だ。カウンターにもう一脚イスを持ってきて、ナベリウスにリストを見せる。
「オレとしては、やはりこの店独自の魔道具が良いと思うがな」
「やっぱり、そうか」
「ああ。だが、心配だと言うなら、保険を掛けて万人向けの魔道具を数点挙げてもいいかもしれない」
「だとすると、この辺りかな」
「そうだな。だとすると、ウチらしさをアピールするなら、この魔道具がいいだろう」
一人で、悩むよりもこうして、的確にアドバイスしてくれる人が近くに居るというのは、なんて心強いんだろう。
「なるほど、じゃあ、これとかもありじゃないか」
などと、二人である程度どれを推すのかを決めていったのだが、大抵こういう上手く事が運んでいる時には、邪魔が入るものだ。
「何をしているんだ、お前達」
クラン制服を着たアスタロトが店の奥から顔出してきた。その両手には本が塔を築いている。どうやって保っているんだ、それ?
「それは、こっちのセリフだ。その、本どうした?」
「買った」
だろうな!
「一応、仕事中だと言う事は忘れてないよな?」
「当たり前だ。ちゃんと店番をしながら読むつもりだ」
「それは、してないだろ」
「今は、客はいないんだ、店番をしながら本を読んでもいいだろ。お前達だって雑談しているだろう」
そう言いながら、本をカウンターのテーブルに置くと、イスを持ってきて俺達の近くに座るなり、本の塔の一番上を取ったかと思うと、読み始める。
確かに、今は客がいないから、ナベリウスと話をしていたが、決してサボっているわけではないんだが!
「あのな、こう見えて俺とナベリウスは……」
「私なら、これも追加するな」
魔法で創り出した水が、矢印の形になったかと思うと、ある魔道具を指し示した。それは、俺とナベリウスが、少し避けていた物でもあった。
「いや、流石にこれは」
『うるさいねん』だった。掌に収まる大きさで、これを握るととんでない爆音が響き渡る魔道具だ。この魔道具の用途は、モンスターなどに襲われた時に大きな音で相手を怯ませるといった物だ。俺も最初は、なるほどと思ったのだが。これが、存外に売れ行きは芳しくない。
そう言うのも、このギリュシアにおいてそういった事に遭遇する事が稀だからだ。街道などには、魔道兵団や携帯人形による巡回などによって、安全がある程度守らているからだ。ならば、その手の届かない場所を通る人には必要なのでは? そう思い、調べたら、そもそもが通らないのだ。
当たり前だ、危険かもしれない場所に敢えて行くなんて事を選ぶ人間がそういるわけがない。
そして、ダンジョンに潜る人間も少ないので、需要があまりなく、俺自身どうしたものかと思っていた魔道具なのだが。アスタロトはこれを選んだ。どういう事だ?」
「アスタロト。なぜ、これ選んだ?」
ナベリウスが、代わりに訊いてくれる。
「お前や、ベリトがいつも言っているだろう。要は使い方だ」
ヒントなのかも怪しい返答をしたかと思うと、本の世界へと戻っていった。いやいや、もっとなんか言ってくれよ。
ナベリウスを見るが、彼も彼女の言葉を計りかねているといった感じだ。だけど、いい加減ではあるが、妙な説得力のようなものが、時々顔を見せるんだよな、この人は。
一考してみるか。
そんな時、入口のドアが開き、来客を報せるベルが店内へと鳴る。店のドアを潜って店に入ってきた人物は、お客さんではなく、
「バ、バアルさん、遅くなりました」
「全然、遅くないから大丈夫」
急いで来たのか、肩で息をしていて、水色の髪が揺れている。店内入って来たのは、ウーラオリオギリュシア支部に所属している冒険者、パールだ・
パールは、一度大きく深呼吸をして、息を整える。
「すみません。もう大丈夫です」
「うん。じゃあ、行くか」
「はい!」
リストを仕舞うと、出掛ける準備をする。
「二人とも、これから何か用事でもあるのか?」
そう言えば、他の人には言っていなかったな。
「いや、パールの特訓だよ」
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