⑥
「アスタロト、お前にも訊きたい事があるんだ」
「なんだ?」
また、二人が仲良く喧嘩をする前に俺は、前々からアスタロトに訊こうと思っていた事を訊く事にした。
「スエラル国に伝わる神生魔剣『
そう、元々はスエラル国が建国されていた時から、王家に伝わってきていたとされる魔剣だが、その力は失われていると言われていた。しかし、クロノルスの手によってその力は失われてなどいなかった事が判った。
むしろ、あいつはその力を使いこなしていた。どうして、陛下すら知らなかった事をあいつが知っていたのか、そして、あの力はいったい何なのか。それを知る為にも、アスタロトの知識を聞きたかった。
アスタロトの知識の豊富さは、この世界で一番だと思っている。アスタロトなら、何かを知っているのはではと思った。
「ああ。お前達が言っていた、クロノルスがあの魔剣を使って遺人を生み出した事についてか。正直に言えば、私もその話を聞いて、驚いた」
「アスタロトも知らないのか」
「過去にあの国と『
「どういう事?」
ベリトの質問に、アスタロトはジュースが入ったグラスに口を付け、喉を鳴らす。
「力を失ったと言われているのに、肝心のその力が何かをなぜ誰も知らないのか。あれは、スエラル国建国からあったとされている。なら、その所有者は王家の人間だ。ならば、少なくとも王は知っているとは思わないか?」
実は、クロノルスとの会合の後、プルーティアを通して一度陛下に訊いて貰った事がある。しかし、答えは知らないとの事だった。
「どこかで、その情報が途絶えという事か?」
「それか、敢えて伏せたか」
「伏せる? 伏せる意味はなんだ?」
「さあな、ただの憶測に過ぎない。現状、私から言える事は、判らない。それだけだ」
アスタロトとしても、悔しいのか、その感情が伝わってくる。
「ねえ、クロノルスが実は王家の人間だったって事はないの?」
ベリトがとんでもない事を言い出した。
「ベリト、そんなわけ」
俺が、流石の物言いに反論しようとすると、ナベリウスが止める」
「待て、バアル。もし、クロノルスが王家の血を引く人間ならば、あの神生魔剣を扱えるのにも納得がいく。そう言いたいのだろう、ベリト」
「そう。あたし達はあの国の王家についてすべてを知っているわけじゃない。クロノルスが血を引いているなら、あたし達の知り得ない情報を知っている可能性だってある。陛下だって、あたし達にすべてを話すとは限らない」
あの陛下が、俺達に隠し事をしている? そんなわけはないと言いたい。しかし……。
「無くはない話だ。だが、一概にそうとも言えない」
そんな中、アスタロトが口を開く。
「知っているだろう、神生魔剣は、剣自体が所有者を選ぶ。血筋は関係ない。だから、剣自体を扱えるからと言って、王家の血を引いているとは………」
喋っている途中に、急にその動きが止まる。これは、喋ってる途中に何かを思い付き、考えている時のアスタロトの癖の一つだ。
「アスタロト?」
あまりにも長く固まっているので、心配になったナベリウスが声を掛ける。
「あ、ああ」
「何か思い付いたのか?」
「いや、私とした事が荒唐無稽な思い付きをして固まっただけだ」
そう言うと、何事も無かったかのように、グラスを手に取ると、グッと一気飲みしたかと思うと、
「まあ、いずれ、すべてを明らかにしてやるがな」
まるで、獲物を狙う肉食獣のような表情をしながら、言い放つ。エルフは感情をあまり表に出さないと言われているが、アスタロトを見ていると本当なのかと疑いたくなる。パッと見れば、整った容姿とクールな雰囲気で、好印象で見られるだろうに。
彼女の本性を知った瞬間に逃げ出すに違いない。
「それ、あたしの」
「………」
アスタロトは無言で、空になったグラスをベリトの前に置く。俺とナベリウスが店員さんをすぐに呼んだのは、言うまでもない。
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