③
「おい、アスタロト、お客が来たから、対応してくれ」
「ナ、ナベリウス!」
階段を上って来たナベリウスに、俺は勢いよく立ち上がり、泣きつく。
「ど、どうした、バアル」
ありがとう、本当にありがとう。俺、一人だけだったら、この空間は耐え切れなくて、窓から逃げ出す所だった。
「あ、あいつらを……」
俺が指を差した方を見て、ナベリウスはすべてを察したのか。ため息と一つ吐くと、任せろと言わんばかりに、肩をポンっと叩かれる。
「止めんか、二人とも。この店を跡形も無く吹き飛ばすつもりか」
「ちょうどいい所にきた」
「聞いてよ、ナベリウス」
にらみ合いをしていた二人がナベリウスに詰め寄る。それぞれの言い分を聞いたナベリウスが口を開く。
「ベリト。お前の魔法の技術に、オレはいつも驚かされている。しかも、お前は、オレが持っている魔道具を造る技術でさえ、自分の物にした。その、向上心と感性は、賞賛に値する」
絶賛の言葉に、ベリトは頬を掻く。
「アスタロト。お前の探求心と魔法の才は、近くに居るオレが一番よく判っている。お前は、俺が出会ってきた中でも、最高の魔導士の一人だ」
その誉めの言葉を、今度はナベリウスに向けら、ナベリウスは満更でもない顔をしている。
「つまり、オレが何を言いたいかというと、二人とも比べる事がないほど、素晴らしい魔導士だという事だ」
ナベリウスはドンっと断言する。
彼が取った選択、それは、褒めて黙らせる、きっとナベリウスにしか出来ない一手だった。
現に、さっきまでの圧し潰さんばかりの空気は、無くなっている。
「ほら、アスタロト。判ったなら、こっちを手伝え」
「判った。今、行く」
そして、間髪入れずに二人を引き離す。アスタロトが下に降りていき、その後をナベリウスが追いかけていく前に、俺の方を向くと、親指をグッと立てていく。それに、応えるように、俺も指を立てる。
ありがとう、ナベリウス。やはり、頼りになる男だ、お前は。
「で、バアルは、私とアスタロト、どっちが凄いと思うの?」
だが、俺は、どうやら逃げる事が出来ない道にいるというのか。
この後、俺はベリトの機嫌が損なわないように、ナベリウスを見習い、褒めちぎった。
「お疲れ様」
「お疲れ様でした!」
今日の営業も大きなトラブルも特になく、無事に終わった。マキュリーも復帰してから、なんだか、より一層頑張ってくれているおかげかもしれない。
「じゃあ、少し在庫を見て来る」
「頼む」
ナベリウスとアスタロトの二人に商品補充の為に、魔道具を取りに行って貰う。
「マキュリー、ありがとな。マイアさんの調子はどうだ?」
「もう、いつもの調子に戻って、仕事に戻っています。お父さんと私は休んだらって言いているんですけど……」
凄いな、あの人。
「あっ、それで、バアルさんにお父さんから言伝を預かってるんです」
「ケイオン代表から?」
なんだろう? 正直心当たりが結構あるから、少しヒヤヒヤする。
「はい。『マイアを助けて貰った礼をしたいから、呼んで来てくれるか?』だそうで
す」
マキュリーが最大限の低音で、おそらくだが、ケイオン代表の真似をしてくれる。ああ、癒されるな。やった後に、恥ずかしくなったのか、耳が赤い。
ああ、さっきのベリトとアスタロトのやり取りで削られた俺の心が癒されてい
く。
「だけど、お礼の言葉は、クリルで貰ったし、あれはしっかりとテローゾからの依頼をウチの冒険者がこなしてくれたものだから、お礼だなんて」
「何度言っても、足りませんよ! バアルさんたちのおかげで、お母さんは助かったんです。だから、是非来てくれませんか?」
しかし、あれはしっかりとした依頼、つまり仕事だったわけだから、そこまで………と思ったが、真剣な視線をマキュリーから向けられては、断るわけにもいかないか。
「判った。ケイオン代表には、近い内に顔を出しますって伝えてくれるか?」
「はい! 絶対に来て下さいね!」
俺の承諾の言葉に嬉しそうな反応をする。あの、一件からしっかりと代表やペルとは話をしていないから、ちょうどいいか。
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