②

 前と比べれば、売上も少しずつではあるが、右肩上がりだし、もっとこの店をこの国で認知させていかないと。その為には、これを成功させないと。


 先日届いた封筒の中から、一枚の紙を取り出す。


『サベリア市場のご案内』


 大きく書かれた文字の後には、参加事項においての注意点や、日時などが詳細に書かれていた。それは、アウロラさんに勧められ、参加申請をしていた結果がきた。


 アウロラさんの言う通り、申請は通り、参加する事が決まった。その、準備に追われているので、助かっている。


 開催される日時まで、まだ余裕があるのだが、それでもやれる事はやれるだけしておかないと。


 それに、店の事もそうだけど、他にも気に掛けなければいけない事がある。それは、今、このウーラオリオギリュシア支部に所属している冒険者のシバとパールについてだ。


 ナベリウスとアスタロトがこの店で働く事を伝えた時に、二人は鉢合わせをしていたのだが、ナベリウス達がこの店で働く事にばかり気を取られて、結局の所、シバとパールはしっかりと話をしていなかった。


 シバの方は、機会を伺っていたのだが、パールがそれに気づきつつも、避けていたように見えた。本当に、パール自身が納得するまで、シバとは距離を取るつもりらしい。


 だとすると、変に仲を取り持つより、パールの希望を叶えなければ、何の解決にもならない。


 でも、そんな事情があろうとなかろうと、俺は、パールを鍛えて上げたいと思っている。クリルでの一件で、パールの潜在能力は俺の見立て以上だ。本人も強くなりたいと思っている。


 なら、その気持ちに応えないとな。


「そういえば、バアル。さっき郵便が来てたよ。はい」

「おっ、ありがとう」


 そう言って、俺に封筒を何通か差し出したのを、受け取る。


 えーと、請求書や、ギルドからの報せ、あとは他の店のビラ……俺達もこういったビラを作成してみるか。でも、今度のサベリア市場の為に、看板とか発注するつもりだから、まだそっちには割けないな。マキュリーやナベリウスに相談してみよう。


 今後の展開を考えていると、良く知った差出人の名前を見つけた。


「ベリト、スサノたちから手紙が来てるぞ」

「なんて?」

「えーと」


 封筒の封を切り、手紙を取り出し、手紙の内容を読んでいく。その、内容に俺は驚く。いや、あいつらの実力なら不思議はないが。


「バアル?」

「あいつら、トコヨの四十層まで行けたらしい」

「へぇー、頑張ってるじゃん」


 トコヨはスエラル国の未踏破ダンジョンの一つだ。あのダンジョンには色々な事があり、スサノ達のランクアップ昇格試験の舞台でもあったが、三十層までだったはず。そこを、超えるとは、もう俺が教える事なんてないのかもしれないな。


「これなら、ベリトがクシナダに魔法を教えるのも遠くない未来かもしれないな」

「どうかな。あたしの教えを断った人間が居るから、心変わりするかもよ」

「………」


 何気に、根に持っているんだよな。俺がベリトじゃなくて、アスタロトから教わった事。


「クシナダは、ベリトの事を慕っているし大丈夫だろう」

「クシナダは、そうかもね」


 敢えて、クシナダの名前の所を強調してくるのは、止めて欲しい。しょうがないじゃん、俺だってあの時は、頑張ったんですよ。でも、どうしても、俺には天才の言語を理解出来なかっただよ。


「最初に、頼んだのは俺だった、ごめん。だけど、俺にはベリトと違って魔法の才に関してそこまでの感覚はないんだよ」

「それはそう」


 いや、せめてなんかさ、そんな事ないよとか、まあ、頑張っているんじゃない的な一言はないんですかね、ベリトさん?


「でも」


 俺の心の声を聞いたのかは、知らないが、ベリトが言葉を発する。


「アスタロトじゃなきゃ、バアルがあそこまで魔法を使えなかったのかも、また事実」

「……」


 なんか、ベリトって普段はアスタロトに対してはツンツンしているのに、なんだかんだで、認めているんだよな。


「なに?」


 きっと、俺は少しだけ気持ち悪い顔をしていたのか、ベリトほんの少しだけ、本当に少しだけ引いている。


「アスタロトの事、認めているんだなって」

「あんな魔導士、この世界でアスタロトだけだよ。あたしは真逆。だからこそ、負けられないけどね」


 アークの時から、ベリトはアスタロトに対抗心のようなものを持っていた。だからこそ、今のベリトがあるのだが。


「まだまだ、私には及ばないけどな」


 そんな話をしていたら、階段の方から揶揄うかような含みを持った言葉が飛んできた。


「店番はどうした? アスタロト」

「店は、マキュリーとナベリウスだけで充分になって暇になったから、こっちに来ただけ」


 そう言いながら、新しくこの前買ったソファーにドカッと座る。


「妄言もそこまでいくと、可愛いいね」

「開発した魔法を悉く、私に粉砕されたのを忘れたのか?」

「いつの話、それ?」


 あれ? なんだか、重くない、空気。


「そっちこそ、忘れてない? あたしの魔法がアスタロトの魔法を破って、あたしと

食事当番替わったの。やっぱり、長く生きているから、記憶力が落ちているんだね、おばあちゃんは」

「私に手も足も出なくて、半べそかいていた小娘が、一人前な口を叩くじゃないか」


 お、おかしい。なんだ、この圧は! だ、誰か、助けてくれ!

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