第四章 模擬試合という名の喧嘩
①
「いらっしゃいませ!」
今日もマキュリーの元気の声が店内に響く。あれから、マイアさんの体調も快復して
仕事に精を出しているとの事だ。あんな事に巻き込まれたばかりだというのに、ケイオン代表のパートナーなだけはある。
そして、休みを取っていたマキュリーもこうして、ウーラオリオギリュシア支部でまた店に活気を取り戻してくれた。やはり、彼女が居るのと居ないのとでは、違うな。さらに、今、この店には新しい戦力も加わった。
「それはこう使う物だ」
店の中にある魔道具を、来店してくれたお客さんに説明しているのは、最近、このウーラオリオギリュシア支部で働く事になった。アークのかつての仲間の一人、ドワーフのナベリウスだ。
ナベリウスは職人でもあるが、こうした事も得意というか、基本的に裏表がない性格をしているから、人との接し方がとてもうまい。それに、加えて魔道具にも精通しているから、ウチの商品もある程度ベリトから説明を受けたら、すぐに理解してしまった。それどころか、ベリトに対して改善案や改良案なんかも話をしており、ベリトも自身に、魔道具の作成の仕方を教えて貰った人だから、素直に聞き入れ、二人で熱く話し合いを、ほぼ毎日のようにしている。
こちらとしては、本当に大助かりだ。アーク時代も何かと面倒見のいい性格だったし、ナベリウスと冒険者ではないが、またこうして一緒に何かを出来るというのは、嬉しい限りだ。
しかし、なんかんだで、クランの制服似合っているな。
ただ、問題があるとすれば。
「なあ、バアル。さっき行った店で珍しい本を見つけたんだが、もし買ったら経費で計上出来るか?」
同じように、クランの制服を着ているエルフの女性がカウンターで本を片手にそんな戯言をほざいている。
「ちなみに訊くが、その本のタイトルは?」
「『消えた大都市アルスマルスは実在する』だ」
「自分で買え」
俺はばっさりと切り捨てる。どう聞いても、お前の趣味だろうが! 俺の言葉を聞いて、彼女は首を傾げる。
「な、なぜだ?」
「えっ、むしろなんでいけると思ったんだ?」
「だが、あれは、もう絶版されているんだぞ。貴重な物なんだぞ」
「知らん。給金は出るんだから、その時に自分の金で買え」
それだけ言うと、俺は店の奥へと引っ込む。後ろでは、ケチという言葉が聞こえた気がするが、気のせいだろう。
俺は、軽くため息を吐く。アーク時代から、どうも金銭感覚がズレていたが、未だに、ズレたままみたいだ。
エルフのアスタロトは、種族が他の種族と比べれば、寿命が長いから、どうも浮世離れしているというか、自分の世界で生きているんだよな。
でも、彼女の探求心と知識、そして、魔導士としての実力はとんでもない。魔法を教わっていた頃は、尊敬していたのに、あの時のアスタロトはどこに行ってしまったんだ?
階段を上がり、二階へと行くと、ベリトがいつも通りに作業をしていた。あの二人が来てから、ベリトは基本的に二階の自分の席で、作業をしている。
その様子を見ながら、この店で魔道具の調整なんかをするのは、手狭なになってしまっている。本格的に、どこかを借りたりするか。
「どうかした?」
俺が来た事に気が付いたのか、作業をする手を止める事なく、ベリトが俺に声を掛けてくる。
「いや、こっちに来た時に比べて随分と賑やかになったなって」
「ほんとにね。うるさいくらいだよ」
などと、言っているが、なんだかんだで、ベリトもこの生活を楽しんでいるのが判る。久しぶりに昔の仲間と何かするというのは、やはり、嬉しいだろう。
俺は、ベリトに近くまで寄ると、何の魔道具の調整をしているのか見てみる。する
と、それは俺の見知った物であった。
「お前、それ、
あの時、魔道兵団が操っていた自動魔道兵団の物だ。ベリトが無傷で手に入れた戦利品だ。
「そう」
「その魔石をどうするんだ?」
「秘密」
秘密って……そんな事言われた気になるだろう。
「まあ、楽しみにしていてよ」
いたずらっ子のような無邪気な笑みを俺に見せてくる。この表情を俺はよく知っている。新しい魔道具の試作とか言って、俺を実験台にしていた時とまったく同じだった。
まずい。これ以上、突っ込んだ事を聞いたら、また実験の被験者にされてしまう。
「そ、そうか、楽しみにしておくよ」
逃げるように、自分の机まで行き、椅子を引いて座る。今までは、店頭に出なければいけなかったが、ナベリウスと、まああと、アスタロトが居るので、俺が出なくても良くなったので、こうして事務作業や他の作業にも集中出来る。
それに、マキュリーの負担もこれで、少しは減る事だろう。
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