㉑完

 その後、ローアから報せを受けたギルドの職員と、ケイオン代表やマキュリーたちが来た。マイアさん達の無事な姿を見て、ケイオン代表は安堵し、マキュリーは涙を流していた。


 ケイオン代表とマキュリーからはお礼を言われたのだが、事の詳細をいくつか伏せて話をしたので、心が痛んだ。だが、まあこうして無事に再開出来た姿を見れたか

ら良かった。


 パールも怪我から快復して、最初に俺がしたのは謝罪だ。今回はサポートをすると言ったのにも関わらず、俺が危険な目に遭わせてしまったのだ、頭を下げても足りないぐらいだ。


 しかし、パールからはむしろ感謝されてしまった。あの、戦闘でパールなりに手ごたえを感じたみたいだ。実際、あの戦闘でのパールの立ち回りが良かった。二体目の遺人が出て来なければ、二人で充分に倒せていたかもしれない。


 これからは、約束通りパールの事を見てあげよう。そして、一日でも早く、シバと仲直りしてくれ。


 マイアさんが全快になるまで、クリルに留まるというケイオン代表とマキュリーと別れ、俺たちは一足先にローアへと帰ってきた。


 そして、その足で久しぶりのウーラオリオギリュシア支部へと帰還した。そういえば、ベリトはしっかりと店番をしていたのだろうか?


 さっそく、営業中のドアを開ける。


「いらっしゃいませ!」


 元気の良い男の子声が出迎えてくれた。あれ、男の子?


「あ、あれ、シバ?」

「パ、パール⁉」


 挨拶をしたのは、店の制服を着たシバであった。もう、何も聞かなくても判る、判ってしまった。


「シバ、あいつは二階か」

「あ、ああ」


 シバは喧嘩中のパールと会って困惑しているのか、俺に対して素直に答えてくれる。


「悪いが、呼んで来てくれるか?」

「あ、ああ」


 シバはパールと俺を交互に見ながらも、これまた素直にベリトを呼びに二階へと向かってくれる。


 そして、しばらくすると、シバはベリトを連れて戻ってきた。


「おっ、おかえり。意外と早かったね」

「ただいま。他に言う事あるか?」

「ないけど」


 思い当たる節がないのか、即座に答える。


「店番をどうして、シバがしているんだ?」


 俺は、指名依頼で離れる前に、ベリトにこの店の事を頼んだ。それなのに、これ

はどういう事なのか。


「パールがいなくて、いじけてたから、手伝って貰った」

「じゃあ、しょうがない」

「おい!」


 だって、いじけてたんだろ? じゃあ、働いてもらうしかない。ベリトに、後で改めて小言を言うとして、今は、他にしなければいけない話もある。


「シバも居るならちょうどいい。ちょっと、紹介したい連中が居るんだ」

「紹介したい連中?」


 その言葉に興味を少しだけ持ったのか、聞いてくるシバに対して、ベリトは、カウンターに座って、作業をしている。


 この後の展開を想像すると、少しだけ楽しみになる。


「なんだ、ベリト。お前は変わらないな!」


 さっきのシバよりも、一段と明るい声が店内に響く。シバは、その人物の姿を見て、驚愕し、ベリトに至っては、いじっていた魔道具を床に落としてしまっている。


「ナベリウスさん⁉」

「えっ、なんで?」


 二人は突然の訪問者に声を上げる。


「久しぶりだな、シバ。変わらず元気そうで何よりだ! それに、あれからも精進しているようだが、まさかこのような形で再開するとはな」

「い、いや、今日は偶々こういう事をしていただけで……」

「それも大事な事だ。それに、一目見れば判る。しっかりと鍛えている事が」


 その言葉に、シバは照れくさいのか、頬を掻いている。あの、ひねくれ者のシバがこんな素直に……俺と何が違うんだ?


「なあ、パール。シバの様子がいつもと違うんだが?」

「や、やっぱり、私たちにとっては、やはり特別な方なので」


 なるほどな。そう考えると、スサノとかも、客観的に見ればあんな感じなのだろうか? 元々素直な子だから、考えた事も無かったな。


 そんな事を思っていると、服の裾を引っ張られる。


「ちょっと、バアル、どういう事?」


 いつの間にか、近くに来ていたベリトが俺の服を引っ張る。意外な人物の登場に、ベリトも驚いているが、まだまだあるぞ。


 忘れていないか、ナベリウスが居るという事は当然、もう一人居るという事に。


「ベリト、お前は成長していないな」

「なっ! アスタロト!」


 ベリトの頭に手を置き、撫でているアスタロトも店内へと入ってきていた。


「アスタロトさん⁉」

「久しぶりだな」


 シバは、アスタロトの姿を見て、又もや驚愕の言葉を上げているが、そろそろ驚きすぎて気絶するんじゃないか?


「いつまで撫でてるの」


 そんなやり取りをしている最中でさえ、ベリトの頭を撫でていたので、アスタロトの手を払いのける。


「だって、ちょうどいい所に頭があるから。その幼児体型が変わらなくて安心した」

「えっ、喧嘩する?」


 ベリトはとんでもない圧を発する。このやり取りすらも懐かしい。アスタロトがベリトを構い、それにベリトがキレる。うん、なんだかほっとするな。


「ど、どうしてお二人が?」


 未だに、二人が合わられた衝撃から抜け出せないのか、困惑しながらも訊いてく

る。いやー、よくぞ訊いてくれました。


「二人には、これからウーラオリオギリュシア支部で働いて貰うからだ!」


 俺は高らかに宣言した。シバは嬉しと驚愕が入り交じった面白い表情をしており、ベリトに至っては、とんでもなく嫌そうな顔をしていた。間違いなく、アスタロトが入るからだろうけど。


 まあ、そんな事は置いてしまえ。こうして、ウーラオリオギリュシア支部に新しく新入職員が入ったのであった。


 とりあえず、ベリト、アスタロトの二人、魔力を抑えようか。

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