⑦

 歓迎会から数日経って、俺はロープスさんのお店イグノダに来ていた。当然、プライベートではなく、仕事関係でである。


「では、今回もこの金額でお願いしてもいいですか?」

「うん、大丈夫だよ」


 ロープスさんとの話し合いはすんなり終わる。他のお店によっては伸びる時もあるから、こうもすんなり終わってくれるのは本当に助かる。


「聞いたよ。会計部に新人が入ったんだね」

「はい。いずれは、ここにも来ると思いますので、その時はよろしくお願いします」

「うん、会えるのを楽しみにしているよ」


 ラウムには、まだこの業務は任せていない。でも、この調子でいけば、そう遠くない内にこの業務を任せる事になるだろう。


「じゃあ、また来ますね」


 俺は立ち上がると、部屋から出て行こうとすると、ロープスさんに呼び止められる。


「バアル君、ちょっといいかな?」

「どうしました?」


 振り返り、ロープスさんに応える。なにか、他に気になる事でもあったのだろうか?


「仕事の事では無いから安心してくいいよ。イチヒメちゃんの武器の事でね」

「イチヒメのですか?」


 以前、クシナダがロープスさんの所に来たが、合うものが無くて断念したみたいな事を言っていたな。


「もしかして、何か良さげな物が入りましたか?」

「いや、そういうわけじゃないんだ。ただ、アストレイアちゃんから聞いてね」

「もしかして、へーパイルの話ですか?」


 元々は、へーパイルに頼んでみたはどうかと提案したのは、あいつが。でも、どうしてロープスさんがと思ったが、アストレイア達は今、ダンジョンに潜っている。おそらく、その準備の為にここに寄った時にでも俺とした話をロープスさんにもしたのだろう。


「うん。無いなら造ればいい。確かにその通りだと思ったよ」

「俺もそう思ったんですが、やはりへーパイルは難しいかなって思うんです。あそこは、基本的には武器の受注なんかは気軽に受け取ってくれません」


 その事は、マルガスさんとも話をした。


「どうやら変な噂が流れているみたいだね」

「どういう意味ですか?」

「へーパイルの職人は別に受注をしないってわけじゃないんだよ」

「そうなんですか?」


 だけど、へーパイルでも造って貰ったなんてあまり聞かないが。ロープスは頷く。


「条件があるけどね」

「その条件というのは?」

「一つは紹介状を持ってくる事」

「紹介状というと、ギルドかなんかから発行されているんですか?」

「いや、へーパイルと懇意にしている人物からのだね。へーパイルの武器は最高だけれど、あそこはあくまで造る専門だから、それを売るような店は持っていない」

「つまり、その紹介状を発行出来るのは、装備品などを販売している店、商人って事ですか」

「そう。あのクランに認められれば、その権利が認められるんだ。でも逆に言ってしまえば、下手な人を紹介すれば信用が失われ、へーパイルとの関係が終わってしまう。だから、紹介する人もしっかりと見定める」


 なるほど。しかし、俺はその話を聞いて、一つ気になった事がある。


「ロープスさん、もしかして」


 俺の言葉に、ロープスさんは微笑む。


「そう、僕はその紹介状を発行出来る数少ない人物だよ」


 なんて事だ。こんな身近に居たとは。


「でも、そんな話は聞いた事ないですけど」

「ごめんね。これはあまり吹聴するなと言われていてね。だから、紹介した人物にも黙って貰っているんだ」

「なら、仕方ないですね」


 まあ当然か。誰が、発行出来るのかが判ってしまったら、その人物に何があるか判ってもんじゃない。というか、そう感じだから、オーダーメイドは受け付けないみたいになっているのはないか?


「二つ目、これが一番の関門かな。へーパイルの職人に気に入られる事」


 うん、関門過ぎる。


「これは、巷で流れているように、あそこの職人は気難しい人達ばかりでね。実際、紹介したけど、武器を造って貰えなかったって話もある」

「気に入られる条件のようなものはあるのでしょうか?」


 ロープスさんは首を横に振る。より、難しい。


「兎にも角にも行ってみないと話にもなりませんね。ロープスさん、お願いがあります」


 俺は、頭を下げる。


「紹介状をお願いします」

「頭を上げて、バアル君、僕はこの話をしたと言う事は、そのつもりがあるからだよ。僕も彼らには期待しているんだ」

「ありがとうございます!」

「でも、僕が出来るのはこれくらいだよ。後は、本人たち次第だ」

「はい」


 その言葉通り、ここからはイチヒメたち次第だ。だが、なぜなのかは知らないが不安をそこまでは感じてはいなかった。今なら、アストレイアの気持ちが判る気がした。

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