⑧
ロープスさんに紹介状を貰った俺は、休日を利用して、ミーティアの三人に時間を貰う事にした。当日まで彼女たちには、理由は説明しなかった。なんとなくだが、下手に準備とかするよりも、彼女たちの場合はこうした方が成功するのではないかと考えたからだ。
ちなみに、へーパイルに向かう事になった時にベリトにも声を掛けようと彼女が居る特別室に向かったが、そこに彼女の姿はなく、その後も会う事が出来なかった。なので、行くときに声を掛けろと言われたが、今回はしょうがないという事で。
「それで、呼び出して何の用だ? 訓練なら、こんな場所で待ち合わせをする事もないだろう」
三人にはいつもの装備を付けて来てくれと言ってあるので、三人とも各々装備品を着ているし、持っている。イチヒメもそうだが、ただ背に背負っている大剣は鞘に収まっているが、その実、刃は無い。破損した武器を持ち歩くとは、余程大切にしていた事が判る。
「確かに、イナバーンの森でも良かったと僕も思うのですが…」
スサノも俺が呼び出した理由が、定期的にイナバーンの森で行われている訓練の事だと思っているらしい。だが、ごめんな。今日は、違うんだ。
「あの、もしかして…」
クシナダだけは、なんとなく俺が三人を呼び出した理由に見当がついているみたいだな。
「まあ、とりあえず付いてくれば判るから、行くぞ」
そう言って、俺は歩き出す。クシナダは迷う事なく付いてくる。二人は戸惑いを見せつつも、特に何かを言うわけでもなく俺の後に付いてくる。
しばらく歩くと、俺達は目的地に到着する。
「えっ⁉」
「ここは…」
「やっぱり」
スサノ、イチヒメ、クシナダは三者三葉に驚いている。俺たちの目の前には門扉があり、その奥にはウーラオリオのクラン建物を同じくらいの大きさの建物が、そして建物の周囲には侵入者を防ぐかのように、塀が建物を囲んでいる。しかも、結界魔法の他に迎撃用の魔法も付与されているな、これは。
まるで、城塞だな、ここは。俺も、ここまで来るのは初めてだが、改めて圧巻だ。
「今日の目的はイチヒメの武器のオーダーメイドをここに頼もうと思って、お前たちを連れて来た」
「でも、ここってへーパイルですよね?」
スサノの言葉に頷く。
「バアルさんに話をした後に、声を掛けて貰ったので、もしかしたらとは思ったん
ですが、ここは流石に」
やはり、クシナダはある程度、判ってはいたみたいだ。けれども、それがへーパイルというのは意外だったみたいだ。まあ、ここの評判を聞いていれば、そうなるか。
「まだ、イチヒメの武器は見つかっていないんだろう?」
「ああ、だが……」
「無いなら、造って貰えばいいってある奴から助言を貰ってな。ここまで見つからないとなれば、俺もその方がいいと思った」
「それは判るが、ここはクシナダの言う通り、難しいだろう」
三人とも、やはりここの事を知っているからか、最初の俺と同じような反応をす
る。俺は懐から一枚の書状を取り出す。
「それは何ですか?」
スサノが興味深そうに訊いてくる。
「これは、ここの紹介状だ。これが、あればこのクランの工房に入れて貰える」
「えっ、そんな物があるんですか⁉」
スサノが驚くのも無理はない。俺だって、ロープスさんに教えて貰った時は、少なからず驚いたからな。
「ああ、だけど、この事は内密で頼むな。だから、あまり詮索も誰かに言うものもなしだ」
三人は頷く。
「へーパイルの工房に入る事が出来るなんて、冒険者にとってはここの武器は憧れの一つですから」
スサノは高揚しているのか、言葉がどこか弾んでいる。成長しているとは言っても、こういう所はやっぱり男の子なんだなって思う。ちょっと、微笑ましい。
「確かにここに入れる事自体が凄い事だが、目的はその先にある。俺が出来るのは、案内するまでだ。そこからは、お前次第だぞ、イチヒメ」
そう、工房にたどり着いたとしても、武器を造ってくれる職人に認められなくてはならない。
「……判った」
「じゃあ、行くか」
俺は門扉に触れると、勝手に門扉が開く。いったいどういう仕組みだこれは? まあ、入っていいという事だろう。俺たちは敷地内へと入り、建物を目指す。建物までの距離はそこまで遠くなく、すぐに建物の玄関まで着く事が出来た。そして、その玄関の前に誰かが立って居た。
「お待ちしておりました。バアル様」
出迎えてくれたのは、丸眼鏡を掛けた緑髪の男性が柔和な表情をしていた。俺よりも少しだけ下で、スバルやイチヒメと同じくらいの年齢だろうか。しかし、その服装が執事服だからだろうか、俺よりも大人に見えてしまう。それに、所作の一つ一つが洗練されている。
ちなみに、紹介状を発行して貰った時に、ロープスさんからへーパイルには連絡をして貰っている。
「では、紹介状を」
「はい」
俺は、ロープスさんから貰った紹介状を渡す。彼は、それを受け取ると、中身を確認する。
「確かに。ロープス様からお聞きはしていましたが、問題はございません。申し遅れました。この度、案内致します、サルコと申します、以後お見知りおきを」
そう言って、彼は頭を下げる。
「よろしくお願いします。ウーラオリオ財政管理会計部に所属しております、バアルです」
「会計部ですか?」
彼、サルコさんは俺の言葉に引っ掛かりを覚えたのか、疑問を口にする。
「失礼いたしました。てっきり、冒険者の方だと思ったので」
「いえいえ、ただのしがない職員ですよ」
鋭い。流石は、へーパイルの人間と言ったところか。
「冒険者は彼女たちの方ですよ。今回、私は彼らの付き添いです」
「という事は、武器の作成を依頼したというのは」
「私だ」
イチヒメが前に出る。
「イチヒメだ。よろしく頼む」
口調が荒くとも、しっかりとイチヒメは自分の名前を名乗り、頭を下げる。そして、そんなイチヒメの横に、クシナダとスサノも並ぶと、
「同じく、イチヒメです。今日はよろしくお願いします」
「スサノです。お願いします」
揃って、頭を下げる。
「よろしくお願いします。ミーティアの方たちですね、ご活躍は聞いております。なるほど、ロープス様が紹介するだけあって、実直な方たちとお見受けしたしました」
頭を上げるように、促すと、彼は続けて言葉を続ける。
「ようこそ、へーパイルへ」
彼は、そう言うと、玄関の扉を開けて、中へと入る。
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