④
「それでは、歓迎会を始めたいと思います! みんなコップは持ちましたか?」
スバルが確認する。一様に全員がコップを掲げる。
「では、乾杯の前にラウムから一言お願いします」
スバルに言われ、ラウムはイスから立ち上がる。
「今日は、私の為にこのような場を設けていただきありがとうございます。まだまだな、私ではりありますが、これからもよろしくお願いします」
そう言って、頭を下げる。自然と拍手が鳴る。
「よろしくね! じゃあ、主役の言葉もいただいたので、乾杯!」
各々持っているコップをぶつけ合う。そして、一口飲む。
「仕事終わりの、お酒は美味しいですね!」
スバル、そんなおじさんみたいな事を言うんじゃない。まあ、否定はしないけど。
「ねえ、お酒、おかわり」
「お前は飛ばし過ぎな」
横に座る、子どもと見間違う容姿のクランの制服の上からぶかぶかのロープを羽織った紫色の髪の人物。我らがクランの開発部に所属するベリトは、もうコップの中を空にしている。
「てか、他の部署のあたしが居ていいわけ?」
ベリトは開発部、俺達は会計部なので、部署の違う人物が他の部署の歓迎会に参加する事なんてあまりない事なのだが、
「いいんじゃないか。マルガスさんも是非って言ってたし。ウーラオリオで考えれば特におかしい事はないだろ。それに…」
「それに?」
「半分、会計部みたいなもんだろ」
「いや、違うから」
そうだろうか? なんだかんだで、会計部の食事の時とかも結構な高確率で居るし、大抵開発部関係で呼ばれる時は、お前の事だから。もう、会計部としてもベリトは勝手にだが、同じ部の意識がついてしまった。俺に関して言えば、昔馴染みでもあるわけだし。
「違くないですよ、ベリト先輩! もう、先輩は会計部です!」
「違うから」
スバルに至っては、もう半分どころか、完全に会計部扱いである。そんな中、ラウムがベリトに話し掛ける。
「初めまして、会計部のラウムです。ベリトさんの事は他の方から聞いています」
「初めまして。あたしは、開発部のベリトだよ。よろしくね」
「はい、よろしくお願いします」
ラウムがこうしてベリトと話をするのは初めてだから、少し緊張しているのか?
「ラウム、なんか緊張してる?」
スバルも俺と同じ事を思ったのか、ラウムに訊く。
「だって、あのベリトさんですよ! 数々の有名な魔道具を開発して世に出してるすごい人です。むしろ、緊張しない方がおかしいと思います」
つまり、ラウムはベリトのファンだという事か。でも、これは物に珍しい事ではない。前回の品評会もそうだが、ベリトの開発した魔道具はとても人気で、一応ウーラオリオから出ているが、ベリトの人気はクランの内外でも高い。まあ、本人はどうでもよさそうだが。
「別に緊張されるほど、凄くないと思うけど」
「そんな事ありませんよ。私、ベリトさんの出す魔道具の新作いくつか持っています。そんな人と一緒に仕事が出来て凄く嬉しいです」
「そう? なら、予算の…」
「ほーらベリト、追加のお酒だぞ」
余計な事を言う前に、口を塞いでおくか。
「それで、ラウムどうだ? 会計部には慣れたか?」
追加の酒を飲んでいるベリトを、黙らせ、余計な事を言わせないようにする。そして、当たり障りのない言葉ではあるが、ラウムに俺は訊く。
「まだ、仕事に対して不安な所はありますけど、みなさんが良くしてくれますし、何より、スバル先輩が優しく教えてくれるので」
「ラ、ラウム」
スバルが感極まっている。もう、酔っているのか? いや、例え酔っていなかったとしても同じ反応をしたか。
でも、スバルの気持ちも判なくはない。俺もまだスバルが入ったばかりの頃に同じ事を言われて………あれ? 俺はスバルにそんな事を言われたっけ?
腕を組んで、過去の出来事を思い出してみる。おや?
「これからも頑張ろうね!」
「はい」
スバルがラウムに抱き着く。うーん、俺が思い出せないだけだよな、きっと。
「ねぇ、訊きたいんだけど」
「はい。なんでしょうか?」
飲んでいた酒のコップを置くと、ベリトが質問する。珍しいな、こいつが他人に対して、自分から質問するなんて。
「どうして、会計部に入ったの?」
おっ、それは俺も気になるな。なんだかんだで、ちゃんと聞いていなかった。いや、もう来てくれるだけで嬉し過ぎて、そんな事を訊く事はしなかった。
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