②

「先ほどクシナダたちの話をしていたと言っていましたが。最近彼女たちを見かけないのですけど、どこか遠征にでも行っているのでしょうか?」

「いや、実はな……」


 俺は、前回のランク昇格試験の時の出来事を語って、今のミーティアの現状を話す。


「確かにあの時、イチヒメの武器は粉々になっていましたね」

「そっか、イチヒメ達を助けに行ったんだもんな」


 そういえば、そうだった。あまりの忙しさにすっかり忘れていた。なんだったら、あの時、会わない様にまだしたというのに。


「冒険者にとっては、武器は命と言っても過言ではありません。おい、それとすぐに代わりが見つけるのは難しいでしょうね。ましてや、それが長年使用していた武器であれば」

「だよな」


 しかも、イチヒメは大剣だし、スサノとかが使っている両手剣や片手剣なんかは、種類も豊富だが、大剣はそれらに比べれば、使い手が少ないから、あまり扱っている所も豊富じゃないんだよな。


「…まるで、昔、武器を使っていたような口ぶりですね」

「いやいや、俺だってウーラオリオで働いてそれなりになるんだがら、それくらい想像出来るって話だよ」

「…そうですか」


 久しぶりにきたな。アストレイアの俺への勘ぐりが。最近は鳴りを潜めていたのに…。


「お待たせ」


 未だに、俺に疑惑の視線を向けて来るアストレイアをどうしようかと考えていると、ちょうどいいタイミングでルーリエさんが料理を運んでくる。助かった。


「ありがとうございます」


 アストレイアは、運ばれてきた料理、俺と同じくサンドイッチではあるが、中身が違っていた。俺の頼んだのが、タマゴサンドなのに対して、アストレイアは野菜が挟んであるサラダサンドだ。


 ちなみに、このサラダサンドは自家製の甘いソースが掛かっているので、これもまた美味しいのだ。


「あげませんよ?」

「いや、別に欲しくて見てたわけじゃないからな」


 そこまで、俺は飢えた目で見たいただろうか? いや、そんなはずはない。


「さっきの話ですが」

「うん?」


 水を飲んでいた俺は、アストレイアの言葉を返す為に、持っていたコップを置く。アストレイアも食べ終わったのか、皿の上は綺麗だった。


「イチヒメの武器の話です」

「ああ、それがどうした?」

「もし、店に合う物が無いのなら、一から造るというのはどうでしょうか?」

「一からって……武器の作成を依頼するって事か?」

「そうです」


 確かに、ここまでして見つからないのであれば、むしろ自分の意見を伝えた上で造って貰えるオーダーメイドである方がいいのかもしれない。当然、普通に店で買うよりもお金は掛かってしまうが、今のあいつらなら問題はないとは思う。


「アストレイアの言う通り、それはありだな」


 俺の言葉にアストレイアは得意げな顔をする。まあ、確かに得意げになってもいいぞ、これは。


「だとすると、どこに頼むかだな」


 ウチが提携している店舗でも、いくつかはあるけど、どこがいいだろう。腕を組ん

で考えていると、


「『へーパイル』はどうです?」


 アストレイアがある店の名前を口にする。


「へーパイルって『炎の翼アグニス』を造ったクランだよな」

「そうです」


 へーパイルは良質な武器を造るので有名であり、人工魔剣を造れる唯一の工房だ。本来、人工魔剣を造れるような工房は、山奥や森深い場所など、その機密性ゆえに人里から離れて、知る者も少ないなんて場所にあるのだが、へーパイルは王都に工房を構えている。その秘密を手にしようとする者が、偶にいるのだが、工房は特別な結界で守られ、さらに腕利きの護衛もいるので、むしろ侵入した側に多大なる被害が出る結果となる。


 しかも、へーパイルは造った人工魔剣を稀に市場に流す。それが、最近であれば『炎の翼アグニス』なのだが、その数と回数自体も少ない為、値段はお察しの通りである。人工魔剣でない通常の武器でさえ、あまり頻繁に出してはいない。故に、人工魔剣ではない通常の武器でさえ人気があり、値段も他と比べれば高い。そんな所にオーダーメイドなど頼めるのだろうか? しかも、


「あそこの職人は気難しいって聞くぞ」 


 少なくとも、俺が知る限りでは、へーパイルでオーダーメイドを請け負ったのは、指で数えるほどしかないはず。


「ですが、あそこの武器は私が知る限り、最高です。そして、きっとイチヒメに合う武器を造れるのもあそこだけ。それに」

「それに?」

「あなたは難しいと思っているようですが、私は案外なんとかなると思っています」

「その根拠は?」


 アストレイアは少しだけ、言葉を溜めると、


「冒険者の勘でしょうか」


 可愛らしく、微笑んだのであった。それって、根拠になるのか? だが、アストレイアがそう言うと、なんでか、そんな気がしてきてしまう。

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