⑭

 いったい、奴らは何者だ⁉ 我らが居るこの場所に現れた只の侵入者かと思えば、あの強さはいったい…。


 数ではこちらに分がある。地下という狭い空間では我らが不利と判断して、地上へと戻り、罠を張り、待ち伏せていたが、でたらめな方法で地上へと戻ってきたかと思えば、次々とクランの人間を無力化している。


 我らも腕には自信がある。それこそ、相手を仕留める方法に関して言えば、様々な方法がある。しかし、それらすべてが無力化されている。ただの一人の人間に、しかも、敵の武器は木剣などとふざけた物だと言うのに……。


 今もまた、建物の崩壊する音とともに、部下が倒される。先ほどからたった一人で暴れ回っている。なんなのだ奴は、人間なのか? うん? 一人で?


 そう言えば、先ほどから確認出来ているのは、木剣持った男だけだ。もう一人の男の姿を確認する事が出来ていない。いったい何処に居る?


「やれやれ、バアルが暴れ回っているとはいえ、こうも簡単に気配を悟られるような奴が、今の暗殺者クランを率いているとは、信じたくないな」


 潜んでいた私の、背後から首元に刃が当てられている。いつの間に、私の背後に、いや、そもそも気配を察知する事すら……。


「訊くが、お前が暗殺クランを率いているのか?」


 男は落ち着いた声で訊いてくる。


「くっ!」


 着ている魔道具を起動させ、背中に棘を作り出す。服そのものが魔道具になっており、この服の形状を自在に変化させる事が出来る。しかし、


「そんな物を持っているとは、流石に驚いた」


 眼鏡の男は、奇襲にも関わらず、躱したのか、腕に多少の傷を負わせた程度だった。だが、掠っただけでも充分だ。


「致命傷を与えたわけでもないのに、焦った様子が無いな……なるほど、その服、毒か何かが仕込んであるな」


 顔は覆われていて表情など判るはずもないのに、男はそう言ってくる。だが、その通りだ。奴に傷を負わせた時点で私の勝利は確信的な物になった。この毒は、オークですら一瞬で仕留める事の出来るほど強力な毒だ。掠っただけでも致命傷になる。そのはずなのだが……。


「な、なぜ、倒れない…」


 おかしい。もう毒が全身にまわって、動く事すら出来ずに、この男は終わっているはずなのに、なぜ、この男は平然と立って居る⁉


「そんなに驚く事はないだろう。ただ、俺に毒の耐性がるというだけだ」


 毒の耐性があるだと、この毒はそこら辺にあるような毒ではない。暗殺者クランに伝わる特別性の毒だ。それなのに、なぜこの男は……。


「毒で終わりか、なら、さっさと終わらせるぞ」

「調子に乗るな!」


 服の形状を殺傷能力が高い刃型に変化させ、眼鏡を掛けた男に向けて、攻撃を仕掛ける。変化させ、作り出したのは、四つの毒の刃。毒に耐性があったとしても、無力化出来るわけでは無い。なら、その命尽きるまで、毒の攻撃を続けるだけだ。この四つの刃の攻撃をどうする!


 私の攻撃にも、男に焦った様子は見られない。


「大した魔道具だ」

「なん、だと」


 驚愕する。男は、四つの刃を最小の動きで躱し、躱しきれないものは持っているチャクラムで受け流している。攻撃の速さは、決して遅くない。それなのに、この男は捌いている。


「この程度か」

「くっ」


 焦り、困惑、様々な感情が私の中を駆け巡る。そこで、気が付いた、判ってしまった。私とこの男の力量差が。そして、ここにきて、ようやく私は思い出した。


「特赦な毒の耐性、その戦闘力。そして、なにより、チャクラムの使い手。まさか、お前は…」

「気が付くのが遅かったな。いや、気が付かない方が幸せだったな」


 四つの刃を掻い潜り、私の元へとたどり着いたかと、思った瞬間には、私の意識は無くなっていた。

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