⑬

「囲まれたな」


 正体不明の全身黒いフードのような物を被った連中が俺達の周りを囲んでいる。どいつも得体の知れない雰囲気だ。間違いないな。


「暗殺者クランのお出ましか」


 さてと、初動はどうするべきか。ヴァンを見るが、背中しか見えていない為、その表情は判らない上に、さっきから何も口にしない。


「どうやら、貴様らは客というわけではなさそうだ」


 考えていると、暗殺者クランの一人が俺達に向かって言う。


「おいおい、それは早計じゃないか? お前達に依頼しに来た客かもしれないだろ」

「それは、あり得ないな。我々に仕事の依頼をする時は所定の手順を踏む必要がある。それに、こんな場所まで入ってきた人間が客なわけが無い」

「なら、言ってくれよ。なんとか、誤魔化そうとした俺が馬鹿みたいだろうが」

「やれ」


 短い言葉とともに、黒ずくめの集団が俺達に向かってくる。やれやれだ。魔法の鞄マジックバックからイナバーンの木剣を取り出し、身命オーラを纏う。相手も身命を纏っている為か、動きが速い。


「まあ、視えてるけどな」


 身命オーラを眼に集中させ、相手の動きを予見し、すぐさま全体に切り替え、相手の動きに合わせて木剣を振る。木剣は相手の胴体に入り、そのまま振り抜く。そして、味方が吹き飛ばされても、関係なしに突っ込んで来る相手の側頭部に軽く木剣で衝撃を与え、もう一人は突きを放ち、最初の奴みたく弾き飛ばす。


「ヴァン、無事か?」


 結果的に背中合わせで戦う形になってしまった為、ヴァンの方を見ていなかったが、


「誰に向かって言っている」


 問題はなそうだな。見ると、ヴァンの足元で二人倒れている。


「ヴァン」

「安心しろ、生かしている」


 言われて見てみると、血は流してるが微かに動いているので、生きてはいる。そして、ヴァンの両手には特殊な円形刃の武器、チャクラムと呼ばれる物が握られていた。


「しかし、安心したぞ。腕が鈍っていなくて」

「業務上鍛えてはいる。少なくとも、事務仕事にかまけている奴よりかは、動ける」

「誰の事を言っているんだ?」

「幸せな奴だ」


  あのな、こう見えて最近は動いてますよ! いや、動かされているというか。

 その時、ヴァンが俺に向かってたチャクラムを投げつける。


「おい!」


 チャクラムは俺の脇を抜け、迫って来ていた暗殺者の一人を切り裂くと、そのままヴァンの手元に曲線を描き戻って来る。


「やはり、鈍っているんじゃないか?」


 この野郎…。揶揄うように言ってきやがって。


「そういうお前だってな!」


 視線をヴァンが外した瞬間、ヴァンの死角から暗殺者が迫るのを、俺の強烈な突きが、相手を飛ばす。


「お前こそ、勘が鈍っているんじゃないのか?」

「ふん」

「なんだ、お前らは」


 さっきまでの勢いが相手には明らかに無い。


「ただの会計係だが」

「ただのギルド職員だが」


 明らかに相手が困惑しているのが判った。


「くっ!」


 暗殺者の一人が、地面に何かを叩きつける。そこから大量の煙が、この空間を覆い尽くす。咄嗟に、口を覆うが、


「安心しろ。ただの煙幕だ」


 煙から襲い掛かってくる暗殺者を倒しながら、ヴァンが言う。一瞬、毒とかが含まれている煙かと思って焦せった。俺の方にも向かって来た暗殺者を無力化する。『反転する魂ソウルリバース』を指に嵌める。


「『風の衝撃エア・インパクト』」


 大量の煙を魔法で、飛ばし、煙を晴らす。煙が晴れ、辺りの様子が確認できるようになるが、さっきまでいた暗殺者どもの姿が消えていた。


「逃げたのか?」

「いや、おそらくここでの戦闘は不利と判断したのか、一時的に下がっただけだろう」

「なら、追撃か」

「だが、この地下から出る為の出入り口で待ち構えている」


 俺達がここから出る為には、あそこからじゃないと出れない。そこで、罠を張って待ち伏せするのは、当然か。だったら、


「出口を増やせばいいだけだな」


 俺は、魔力を収束させる。


「『虚ろなる波動フォローフォース』」


 収束させた魔力を、空間の天井に向かって放つ。けたたましい音がしたかと思うと、天井に大きな出口が完成していた。


「滅茶苦茶な奴だ」

「俺なんて普通だよ」


 反転する魂を外し、身命を纏い、俺とヴァンは新しく出来上がった出口から一気に地上に出る。地上に戻ったと言っても、まだ建物の中である事に変わりはないが、さっきの魔法が建物を貫通していたので、さっきよりも月が綺麗に見える環境になっていた。


 そして、音を確認しに来た暗殺者の姿もはっきりと確認出来る。


「せっかく待って貰ったのに、申し訳ないな」


 俺は木剣で暗殺者の意識を刈り取る。それにしても、暗殺者クランは衰退したはずなのに、結構な数が居る。どうなっているんだ? などと、考えている間も、俺の死角になっている所からクナイが飛んでくるが、木剣で払い落す。それ以上の追撃は無い。


「どうやら、影からコソコソ作戦に切り替わったみたいだな」

「接近戦では、こちらに分があると判断したのだろう」

「なら、どうする?」

「考えがある。バアル、お前はこのまま派手に暴れろ」

「それは構わないけど、お前はどうする?」

「向こうがそうくるならば、俺もそうするだけだ」


 結局、俺が囮になるわけですか。はあ、なんか損な役回りな気がするが、ここはこいつに任せるのが、最善の一手か。


「そいじゃあ、始めるか」


 脚に身命を集中させ、さっきのクナイが飛んできた位置まで行くと、今度は腕に集中させ思いっきり木剣を振るい、壁やら色んな物ごと暗殺者を斬る。


「相変わらず、化け物だな」


 おい、聞こえているからな。

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