⑫
「ここか?」
「みたいだな」
「しかし、本当にここがそうなのか?」
「ヴァンだって気が付いただろ。ヘルエスさんがここの事を口にした時の、あの獣人の子の反応」
そう。明らかに驚いていた。あの反応が、おそらく、マスターであるヘルエスさんが情報を渡した事に対しての驚きだったのだろう。それに、わざわざこの場所を指定して近寄るな的な事を言うのは、どう考えても何かありますよって言っているみたいだ。
「しかし、バアル。罠の可能性も考えられる」
「その可能性は低いとは思うけど、まあ、警戒しておくに越した事はないのは間違いないな」
旧治療院の建物はすでに廃墟と化しており、人が居る気配は感じない。むしろ、こういう場所こそ身を隠すには打ってつけの場所だろう。
「月明かりがあるとはいえ、中は相当に暗いけど大丈夫か?」
「誰に言っている。むしろ、自分の心配をしろ」
ごもっともだ。もし、ここが暗殺者クランの根城だとするなら、明かりを点けて中へと入るわけにはいかない。
俺達はなるべく気配を消して、中へと入る。中は建物の壁などの崩壊によって、月明かりが所々漏れている部分があるが、それでも暗い事に変わりはなく、視界は悪い。
「中はやっぱり広いな。さて、どこから当たるか」
バラバラに探索をとも考えたが、まだ相手の正確な情報も無いのに、別れるというのは、あまりいい手じゃない。なるべく、二人で捜索した方がいいのは確かだが、廃墟とはいえ、この建物自体広い。闇雲に動いてもしょうがない。
「こっちだ」
悩んでいる俺とは違い、ヴァンは迷いなく動き出す。
「おい、どこ行くんだ?」
「外観から、大体の建物の構造は判った。奴らが潜んでいそうな場所にも、見当がつく」
いや、普通判らんからね。
「流石」
「当たり前だ」
よく判ってらっしゃる。
ヴァンの後を付いていく。周りを警戒しながら進んでいくが、未だにここが治療院だったという名残が残っている。そして、人がここを出入りしている痕跡は今の所見つかってはいない。階段が見えてくるが、ヴァンは上に上がる階段を無視して、奥へと進んでいく。
「上には行かないのか?」
「上には、何もないからな」
「だとすると、どこに向かっているんだ?」
「すぐに判る」
そう言って、詳細を語りはしない。まあ、付いて行けば判る事ではある。そのまま、付いて行くと、ヴァンはある部屋に入る。部屋の中は、月明かりが届いておらず暗い。こういう時は、これだな。
俺は、腰に下げている魔法の鞄から筒状の魔道具を取り出す。そして筒の底を回すと、持ち手以外の部分が光り出す。
ベリトが冒険祭に合わせて開発した魔道具だ。俺が貰った物はこの前の戦闘で壊してしまった為、ベリトが更なる改良版を渡してくれた。
「もっと光量を抑えられるか」
「ああ、ちょっと待ってくれ」
俺は筒の底を少しだけ回す前に戻す。すると、発光していた光の量が抑えされる。そう、改良版はなんと光を調節できる使用になったのだ。
「だが、なんで青色なんだ?」
「それは、これがアストレイアをイメージして造られた物だからだな」
本来の使い方違うし、これ。
「ヴァンも欲しいか?」
「遠慮させて貰う」
これでも、結構売上が良いだけどな。ウチの人気商品の一つになりつつあるし。
とりあえず、中を照らしてみる。
「ここは、治療薬を保管しておく為の部屋か」
残されている棚には、昔にここに保管されていたであろう治療薬の瓶が割れている。ヴァンはその部屋の奥にある棚に手を掛けると、その棚を横にズラす。
「見ろ」
ヴァンに言われて見てみると、棚の下には、
「地下へ続く扉か?」
扉があった。ヴァンは、扉の窪みに手を掛け、引っ張り上げる。扉が開くと、地下へと続くであろう階段が見えた。
「よく判ったな」
「薄っすらとだが、この棚を動かした痕跡が残っていた」
ヴァンは、そそくさと階段を下りて行く。躊躇が無いな、本当に。俺も地下を照らしながら、階段を下りて行く。
階段自体はそんなに長くはなく、すぐに地下へと下り立った。地下の空間は、洞くつのようになっている。しかし、何の為の地下なんだ? まだ、奥へと続く空間が続いていく。その、答えはあの先にありそうだ。
「なるほどな」
地下の奥に広がる空間には、スイッチのような物が入口にあり、それはまだ生きており、その空間を照らす魔道具を作動させる為のものらしい。そして中を見て、俺は納得した。目の前にある空間は、朽ち果てたベッドやら、テーブル、棚などが置かれていた。俺は、筒を仕舞う。
「隔離する為の場所か」
「だろうな。流行り病や助かる見込みのない人間もここに運んでいたのだろう」
「それは、判るが。なんで、こんな地下に置く必要があるんだ?」
治療院には症状のひどい患者を隔離する為の施設はあるが、こんな地下にあるなんてそうそう無い。俺はヴァンに訊いてみたが、その実ある種の嫌な考えが頭をよぎっ
ていた。
「決まっているだろ。治療が目的では無かったという事だ」
「…だよな」
嫌な話ではある。ここの治療院が立っている場所も考えれば、ここで何が行われていたのかは口にもしたくない。
「そして、どうやら当たりだ」
「みたいだな」
その瞬間、俺とヴァンの周りに全身黒で覆われた集団が姿を現す。
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