⑩

「あなたから話を聞いて調べてみたんですけど、相当に裏があるクランだったみたいですね。表になっていないだけで、相当あくどい事をしていたとか、恨みも買っていたかもしれません。あなたの言う通り」

「…そんな話はどうでもいいでょう。そんな事より」


 話を終わらせようとするが、こっちとしてはこれが本題だから終わってしまうと、困る。


「あのクランを襲撃したのは、お前だな」


 腕を組みながら、ヴァンが相手を威圧する眼光を放ちながらベントールに言うが、お前段取りとかいろいろすっ飛ばし過ぎだろうが!


「ふ、ふざけるな!」


 案の上ベントールは激昂して、テーブルを思いっきり叩き、立ち上がる。ほら、こうなる。


「いきなり、なんなんだ! こっちは、俺が開発した魔道具を取り扱うって話をする為にあんたらをこうして、家に上げたんだ! それなのに、無礼過ぎる!」


 ごもっとも。


「それに、俺が襲撃した? どうやって?」

「正確に言えば、種撃を依頼しただな。襲撃の実行犯は別に居る」

「だから…」

「お前は、暗殺者クランに依頼したな」


 その瞬間、ベントールの勢いが止まる。


「情報は出回っていないが、やり口が奴らのものだ。騎士団もその可能性で動いているだろう」

「か、仮に、そうだとして、私が依頼した証拠は?」

「依頼した証拠など残っていないだろう」


 その言葉を聞いた瞬間、ベントールの顔の余裕が戻るが、


「お前が、あのクランに相当に恨んでいた証拠ならある」


 ヴァンは、そう言うと、魔法の鞄から、紙の束をテーブルに放り投げる。それは、ベントールの目にも止まる。


「これは?」

「バアル」


 ええ、そこで俺に振るのかよ。最後まで、自分で言えばいいじゃん。早くしろという催促の視線を受ける。はいはい。


「ベントールさん。あなた、バンクから3000万ゼンの融資を受けていますよね。その紙は、その書類です。内容は、新規の魔道具開発資金の為」

「な、な、な」


 なんで、こんな物がここにと言いたいのだろうけど、そこは今どうでもいいので、俺は構わず喋る。


「先日の品評会であなたの魔道具を拝見しましたが、どれも既存で出ている魔道具の改良版でしたよね。新しい魔道具は無かった。念の為、一緒に居た彼女に出品されていた魔道具に掛かる費用は大体どのくらいか訊きました。多く見積もっても1000万ゼンぐらいじゃないかとの事でした。じゃあ、残りの融資金は? それとも、開発はしていたが開発に失敗したのですか?」

「失敗などしていない!」


 俺の言葉に、明確な言葉が返ってくる。ベリトの言う通り、自分で造った魔道具は命と同義という言葉は嘘ではないな。


「ええ、開発には成功していたのでしょう。でも、あなたはそれを出品しなかった。いや、出来なかった。なぜなら、その開発に成功した魔道具は、設計図ごと例の襲撃に遭ったクランに奪われたから、ですよね」

「………」


 言葉は無い。だが、彼の悔しそうに唇を噛み、出ている血が俺の言葉が事実だと言っている。


「あなたの事も調べました。あなたは以前所属していたクランから独立したと言っていましたが、実際はある疑いを掛けられて、それから逃げるように辞めていますね。それが、魔道具を奪われた原因でしょうか」

「……そうだ。昔、俺は所属していたクランで一度だけ横領をした。その時は、証拠は無かったから、不問となったが、噂は残り、俺は残り続ける事は出来なかった。そして、あいつらはどこで掴んだのか、その時の帳簿を手に入れていて、俺に「公表されたくなければ、言う事を聞け」ってな」


 それで、開発した魔道具をそのクランに取られていたわけか。


「俺は、もう我慢の限界だった! ようやく完成した新しい魔道具も奴らは当然のように奪っていった! 俺がどれだけ苦労して造り上げたのかも関係なく! だから、俺はもう全部壊したく……」


 バンッと凄い音がする。その音の発生源は俺の隣に居る人物が、テーブルを思いっきり叩いたからだ。さっきのベントールが叩いた音の比ではない。


「そんな事はどうでもいい」


 とんでもない、ぶった切りしたよ、こいつ。犯人が動機を喋っているのに、どうでもいいって。ほら、相手もポカンとして口開いてるよ。


「どこで、暗殺者クランに依頼した?」


 ヴァンは立ち上がると、ベントールの胸倉を掴む。


「言え」


 流れとか、もう関係ないね。


「言わなければ、お前もそのクランの連中と同じ目に」


 それ、俺らが悪者みたいになるから止めてくれ。ベントールは、ヴァンの本気の目にやられたのか。首を横に振ると、


「み、店で、教えて貰ったんだ!」

「どこだ?」

「『サイメ』って店だ! 裏通りにある! そこのマスターに言えば判る」


 ヴァンはそれを聞くなり、手を離す。彼は床に尻もちをつく。


「行くぞ、バアル」


 要は終わったとばかりに、書類を回収すると、部屋を後にする。はぁ、なんだか

な。まあ、知りたい事は判ったし、後は騎士団とかに任せるか。俺もヴァンの後に続いて出ようとするが、足を止める。


「一つ、訊いてもいいか?」


 どこか放心状態のベントールに訊く。


「なんで、俺達に襲撃の話なんてしたんだ?」


 実行犯は自分ではないにしても、そんな事件に関わっていれば話をする事、自体避けそうなものなのに、それをわざわざ俺達に話をしたのは、何故なのか? それが気になった。


「なんで、だろうな。なんとなく俺の魔道具を見ているあんたらを見ていたら、喋ってたよ」

「……そうか」


 俺は、それだけ言うと、家を出た。

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