⑨

 そして、ヴァンはある部屋に入る。そこは、スサノ達のランク昇格試験の時にこいつに相談した時に通された部屋だ。ここは、密会する為の部屋か何かなのか?


「それで、ここに連れて来たって事は説明してくれるんだよな」

「俺が言わなくても、お前ならある程度の事は想像がついているんだろ?」


 まあ、そうではあるが。どうせなら、ちゃんとお前の口から答えを聞きたいんだが。これで、俺の考えが外れていたら恥ずかしいし。


「まあ、お前の想像通りだよ。俺があそこに居たのは、クラン襲撃の情報を集めるのと、あわよくば襲撃した連中の尻尾でもつかめないかと思ったからだ」

「襲撃されたクランは相当恨みを買っていたみたいだから、その品評会に恨みを持っていた奴が居ると考えたのか」

「ああ。襲撃に遭ったクランは被害の訴えなどが無かったから、ギルドとしては表立って何かをするという事は出来なかったが、こちらとしても怪しいとは思っていた。そんな時に、あの襲撃事件が起きた。そして、その手口を知って、確信したよ」

「暗殺者クランの仕業だって事をか」


 ヴァンは頷く。前回の殿下暗殺未遂の際にも、姿を現した連中だ。ある事があって、奴らは衰退の一途を辿っていたはずなのだが、裏の住人といい、しぶとい。


「それで、あの場に居る事で何か奴らの情報を得る事は出来たのか?」

「いや、確証に足るものは何もなかった」

「そうか」

「だが…」


 ヴァンは、そう言うと、俺に紙の束を渡す。うん? いつの間にそんな物を用意していた? 俺はそう思いながらも、その紙の束を受け取る。俺は、その紙の束を一枚一枚見ていく。


「こんな物よく手に入ったな」

「クランに関する事で気になる事があると言って提出させた」

「職権乱用もいいところだ」

「どう見る?」

「ああ、気になるな」


 この内容が本当なら、違和感がある。しかも、この名前には覚えがある。


「ヴァンは、今日は夜暇か?」

「問題ない」


 あいつの意見も聞いてみたいし、一旦はクランに帰らなければ、まだ仕事は残っている。ヴァンと後で落ち合う約束をした俺は、ギルドを出て、クランに戻った。


「悪い、待たせた」

「気にするな」


 事前に決めていた待ち合わせの場所に着くと、そこにはすでにヴァンが待っていた。しかし、今のやり取りはぜひ女性をしたいものだ。


「ちなみにだが、その人物の場所は知っているのか?」


 まあ、こいつの事だから抜かりはないと思うけど、念の為確認する。


「ああ、調べてある」

「頼もしい事で」


 心配する事でもなかったか。


「行くぞ、こっちだ」

「ああ」


 俺達はその人物の元へと向かう。


 ヴァンに付いて来た場所は、ある一軒家だった、だけど、よくよく見ると、奥の方に増築した建物があるから、ここは住宅兼仕事場となのだろう。相手は、クランに所属してはいなくて、個人で活動しているみたいだから、住む所と働く場所が同じなのは頷ける。


 玄関の扉をノックして、しばらくすると、家主がドアを開けて、姿を現す。


「どちらさま…あんたは」

「夜分に申し訳ありません。品評会の時以来ですね」

「ああ! あの時の人か」


 どうやら思い出してくれたみたいだ。目の前に居る人物は品評会の時に、俺とベリトにクラン襲撃の事を教えてくれたた茶髪の男性、名前はベントール。彼の開発した魔道具を見た時に、開発者の名前を覚えていた。


「それで、こんな時間にいったい?」


 彼が、疑問に思うのも当然だろう。その一回会っただけの人物がこんな時間に訪ねて来たのだ、不審にも思う。


「当然の訪問申し訳ありません。実は、私はウーラオリオで働いているバアルと申します。実は、以前一緒にいた彼女はクランの魔道具を管理している人物なのですが、前回見せていただいた魔道具をいたく気に入りまして、それで、ぜひ私達の提携している店舗でどうかと話になりまして」

「それは、それは」


 食いついたか。俺がウーラオリオの人間という事は、クラン章で判る。


「いきなりではあるのですが、もっと詳しく話をしたいと思いまして、こうしてきた次第です。善は急げというやつです。よろしければ、場所を変えて話をしませんか?」

「でしたら、中でお話を伺いましょう」


 上機嫌になった彼が、中へと案内する。嘘を吐いている事は心苦しくはあるが、仕方ない。俺とヴァンは家の中へと入っていく。


「大したお構いも出来ませんが」

「いえ、突然訪問したのはこちらですので、何も気を遣わないでください」


 通されたのは、彼が普段ここで食事などをしているであろう場所だった。台所や食器などが置かれている棚。天井には、光を放つ魔道具。その部屋の中央にあるテーブルに俺とヴァンは座り、その対面にベントールが座る。


「ベントールさんは、個人で開発を?」

「はい、以前はクランに所属していましたが、今は独立して一人で」

「そうだったんですね。それで、しっかりと成果を出しているのは凄いですね」

「そんな事はありません。順風満帆とはいきませんよ」


 彼は、軽く笑いながら言うが、本当にそうだったのか、少しだけ表情が曇る。さてと、さっさと本題に入るか、隣のヴァンからの威圧が凄いし。


「そういえば、あの時あなたに訊いた話なんですけど」

「話?」

「ええ、ほら、あるクランが襲撃されたという」

「ああ」


 あの時、話をしてくれた時とは打って変わって、どうでもいいという風だ。それは、そうだろう。自分の開発した魔道具を取り扱うかの話をする為に、こうして居るのに、関係のない話を始めれば。それでも、続けるが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る