⑫

 私達は、ある場所に集合していた。そこは、王都から少し外れた森の中。そこは、昔人が住んでいたのだろうが、今は誰も住んでおらず、空き家とかしていた。だから、密会をするにはとても最適な場所だ。


 遅れて、二人が到着する。


「どうなっている」


 一人が私に訊く。


「判らない」


 私は、そう答える以外の選択肢を持っていない。奴一人を始末すれば、事は済んだ。その為に作戦も練った。誰が、あんな援軍が来ると予想出来る。あの男一人でも厄介なのに、それが第一騎士団副団長ギャラン。奴が来るとは。


「どうする?」


 もう一人が訊く。問われるまでもなく、やる事は変わらない


「計画に変更はなしです。抹殺する対象は奴一人です。最悪、奴だけでも早急に始末すればいい。まだ、情報を誰かに話をした形跡はなかった。なら、その前に早急に奴を…」

「始末するってか」


 その言葉に私達は驚愕する。その声の主は、木々の間から、こちらへと近づいてくる。相手は二人、第一騎士団副団長ギャラン、そして、標的の、


「バアル」


 私がそう言うと、奴は笑みを浮かべる。


「驚いてるな。当たり前か、お前達からしたら、なんで俺達がここに居るのか判らないだろうからな」

「どうやって…」

「もちろん、案内してもらった。お前にな」


 そう言って私を指差す。どういう事だ? 『追跡するものチェイス』を掛けられでもしない限りは、私を追って来る事は出来ないはず。奴が魔法を使った様子は無かった。では、なぜ? 私は思考しながら奴を観る。すると、気付く。奴の手には、地図が握られている。

 地図……まさか!


「そうだ。ウチのクランで開発された魔道具『追跡できるん』だ。廃屋でお前を見つけた時に、そこの奴に外に叩きだされる前に、お前のフードに付けさせて貰った」


 私はフードを確認する。すると、頸の部分に何かが付いている。それを取り、踏みつぶす。


「おいおい、結構高いやつなんだから壊すなよ」

「では、最初から…」

「ああ。全部俺達の計画だよ。俺がここ毎日宮廷魔導士第一師団の会計課の手伝いをしていたのも、そして、それはレライーエさんが話をした、俺がある情報を見つけて、その裏取りをしていると。その情報は、まだ確証の取れていないものだから、まだ誰も聞いていない事を。全部、お前らをあぶり出す為だったってわけだ」

「………」


 追い込んだつもりが、こっちの方が最初から追い込まれていた。私は唇を噛む。


「じゃあ、続きは牢の中でも話すんだな」


 そう言って、二人は武器を構える、


「カールさん」


 私の名前を呼んで。






「カールさん」


 俺がそう呼ぶと、少しの間静寂が続くが、すぐの名を呼んだ人物がフードを外す。その人物は、俺を色々と助けてくれた時と変わらぬ表情で俺を睨んでいた。変わらないは嘘か。今の方が本当の顔だろう。


「レライーエさんには、話す人物を日々変えて貰って、様子を見ていた。その中で、あんたに話をしたその日に、襲われれば馬鹿でも気付く。時間が無いのに、よく襲撃の計画を立てられたもんだ。感服するよ」

「『疾風の刃エア・エッジ』」


 カールは、風の刃を放つ。俺とギャランはそれを躱す。


「どうやら、徹底抗戦みたいだね」

「だな」

「魔導士の彼女は任せても?」

「いいのか? お前が二人掛け持つ事になるが」

「問題ないよ」


 そう言うや、ギャランは相手に突っ込んでいく。ギャランの槍を、剣で受け止める。そして、もう一人が、剣でギャランに切り掛かるが、ギャランは受け止められていた剣を弾くと、そのまま槍で、フード二人と薙ぎ払う。

 向こうは問題ないか。なら、俺の相手は、


「あんただ」


 剣をカールに向ける。


「こんなところで!『狂乱する風バーサクウィンド』」


 竜巻が俺の周囲に発生し、俺を飲み込もうとする。このままだと、俺は竜巻に巻き込まれて、バラバラになってしまう。まあ、飲み込まれなければ関係ない。


 竜巻の間を抜けて、俺は、カールに迫る。だが、奴はそれを待っていましたと言わんばかりに、笑みを浮かべる。


「『螺旋の牙スパイラル・ファング』」


 俺の目の前に、球体が出現する。その球体に触れた葉が、粉々になる。設置型の攻撃魔法か。このまま、行くと、俺も…、


「さようなら」


 勝ち誇った笑みを浮かべるカール、なら。俺は、剣をその球体に向けて振り下ろす。刀身が当たった剣は粉々に砕かれる。

 だけど、おかげで俺の勢いは止まった。足に身命を集中させ、跳躍する。


「!」


 カールの傍に着地した俺は、奴が魔法を放つ前に、拳低を奴の腹に決める。奴の意識を奪うにはそれで充分だった。倒れるカールを支え、地面に横たえる。てか、借りてきた剣壊してしまった。後で、フィンさんには謝っておこう。


 さて、ギャランの方はどうなったか。俺は、視線をそちらに向ける。あちらは二人を掛け持っている、大丈夫だろうか?


 視線の先には、ギャランが、二本の剣を槍で受け流していた。攻めているのは、相手側なのに、むしろ、攻めている側が焦っている。


 そして、受け流しては、その都度槍の穂先が相手に突き迫る。その、鋭さと速さは、流石と言うべきか。相手は、剣で槍の突きをズラしてはいるが、体に穂が当たり、着実にダメージを与えている。


 更に、驚愕なのは、複数相手にそれをやってのけているという事だ。槍をまるで、自分の体の一部のように自由自在に操る。ここまでの使い手はそうはいない。


「くっ!」

「くそが!」


 相手は更に焦り、攻撃してくるが、その攻撃には精細さの欠片もない。単調な攻撃。これこそが、ギャランの狙いでもなる。単調な攻撃を捌きやすい。面白いように、戦況はギャランに傾いていく。もはや、戦いのレベルが違い過ぎる。


「やれやれ、この程度で熱くなるとは…あなた達のような輩が、第一騎士団に居た事が僕は許せないよ」


 おいおい、なんて濃密な殺気を放つんだよ。まさか、ギャランの奴…しないよな?


「もう力の差は判っただろ。お前達」


 そう言うと、ギャランは、槍の穂を地面に突き刺す。


「『狂い咲き穿つ花ヘルズスピア』」


 フードの人物達の足元から、無数の赤黒い槍が生え、相手を飲み込んでいく。あれが、ギャランの人工魔剣『暴星の花サルニエル』か、久しぶりにその力を見たな。魔剣と呼ばれる物は、剣だけに留まらず、槍などの他の武器にも使われる総称だ。人によっては、魔槍と呼ぶ者もいるが、共通認識として、魔剣と言われている。


 その理由は、この世界で初めて造られたのが剣だと言われているからだ。そして、剣から派生して様々な武器が生まれた。その経緯から、分類的に魔法を宿す武器は総じて魔剣という扱いになったのである。


暴星の花サルニエル』ギャランの所有する人工魔剣は、任意で様々な形状の槍を創造出来るというものだ。応用が利く、便利な人工魔剣だ。

 というか、


「おい、ギャラン!」


 俺はギャランの傍まで行く。


「どうしたんだい?」


 そう爽やかに、訊き返す。


「どうしたんだい? じゃない! お前いくらなんでもやり過ぎだろ」

「大丈夫。生きてるよ」


 そう言うと、ギャランは槍を地面から離す。すると、赤黒い槍は消えて無くなった。そこから、フードが破れて、素顔が露になった敵が地面に転がる。


「こいつら…」

「ああ、どちらも第一騎士団の騎士だよ」


 一人は、俺を門で止めた奴だ。そして、もう一人は訓練場でフィン団長の隣居た奴か。そう言えば、俺が最初に襲われたその次の日に、こいつ体調不良とか言って、休んでいたな。あれは、怪我を直す為だったわけかよ。


「てか、どっちも第一騎士団ってよく判ったな」

「相手の剣を受ければそれくらい判るよ。全く嘆かわしい」


 転がっている二人を見て、ギャランはため息を吐く。


「それにしても、やっぱりフィン団長が誘うだけの実力だね。どうだい、今の職場を辞めて本格的にウチに来る気はない?」

「止めてくれ。俺は今の職場が気に入っているし、俺なんか居なくても、充分だろ」

「それは、残念だ。でも、もしその気があるならいつでも君の席は、空けておくよ」

「いや、この先もないから」


 ギャランは、俺がアークに所属していた事、S級冒険者だった事は知らない。ただ、俺が冒険者を引退した時に、フィンさんに騎士団に来ないかと誘われたが、俺は断っている。その事を、聞いたギャランが、団長に直接誘われたのは、僕以外では久しぶりだ、とか言って興味をもたれ、事あるごとに誘われている。


「とりあえず、これで一見落着なのかね」 


 俺はそう一人呟く。

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