⑪

 俺は、あの日からまた、数日城に通っては、会計課の仕事を手伝いつつ、様々な事を調べる。そんな日々を過ごしている。


 ウーラオリオの職場には、レライーエさんから、連絡がいっており、俺はこうして通う事が出来ているわけだ。そして、今日もまた、仕事を終えて、夜帰っていた。


 もう夜は遅く、人の姿もまばらである。残業といまでは、言わない、いや、誤魔化すのは止めよう。間違いなく、あれは残業だ。というか、仕事量多いな、あの職場。あんな激務なのに、なんで人が多いんだ? 絶対ウチよりも忙しいのに。


 そんな事を考えながら、俺は歩く。そして、いつの間にか、裏通りへと入っていた。別に、迷子になったわけではなく、これもレライーエさんから言われた事の一つだ。これを、俺はここ数日している。昨日までは、特にこれといって変わった事は起きなかったが、どうやら今夜は当たりみたいだ。


 俺の目の前に、フードの人物が立って居る。認識阻害の魔法。間違いないな。目の前の人物は剣を抜くと、俺に襲い掛かる。


 前回とは違って、真っ向から来るとはな! 俺は魔法の鞄マジックバックから、剣を取り出すと、鞘から剣を抜くと、振り下ろしてくる相手の剣を受け止める。甲高い音が響き、受け止めた剣からは火花が散る。受け止められた剣を相手は引くと、今度は鋭い突きを放ってくるが、俺は、薙ぎ払い、弾く。しかし、相手は、弾かれた反動を利用して、体を回転させ、その刃は俺の首に的確に迫る。俺は後方に下げる事で、その剣を躱す。やはり、改めて思う。こいつの剣は、騎士のそれだ。剣を構え直す。


「!」


 殺気! 後方から迫ってくる、斬撃を剣ですべて弾く。弾かれた斬撃は、廃屋の壁や道に当たり、破壊していく。今のは『疾風の刃エア・エッジ』か。という事は、もう一人の魔導士もいるな。その姿を目で捉える事は出来ない。


「くっ!」


 即座に剣を背中に回し、背後から切り掛かろうとしていた剣を受け取ける。俺が魔法をすべて弾いた瞬間を、狙っての強襲。本当に、戦い慣れし過ぎだろ。

 それに、この連携、


「ふん!」


 回し蹴りで、相手を蹴り飛ばして、距離を取る。そして、襲い掛かってくる。『疾風の刃エア・エッジ』さっきと違う方向から、俺に位置をバレないようにする為に、その都度場所を変えている。捉えようとすると、もう一人が邪魔をしてくる、今度はそっちを対応すると、遠距離からの魔法。思った以上に厄介だな。


 だが、問題ない。耳に身命を集中させる。例え、位置を変えていても、隠れていても、関係ない。俺の、耳が対象の位置を補足した。即座に足に集中。場所は、俺の右後方の廃屋の中。

 一瞬でそこまで、距離を詰め、廃屋の壁を剣で破壊すると、


「かくれんぼは終わりだ」


 フード被った魔導士が居た。先に、面倒なこいつから仕留める。放ってくる魔法を躱しながら、相手に接近する。命までは奪わないが、意識は奪わせてもらうぞ! 俺の手は、相手を捕らえる………瞬間、俺は廃屋の外へと叩きだされた。


「がはっ!」


 俺を外へと叩きだした人物がゆっくりと出てくる。その人物も認識阻害のフードを被っている。


「おいおい、伏兵とか聞いてないぞ」


 やっぱり、仲間がまだいやがったのかよ。くっそ、完璧に不意を突かれた。まずい、早く体勢を…だが、そんな事を黙って待ってくれるはずもなく、剣を持ったフードが、攻撃してくる。


 迫って来る剣を受け止めるが、さっきまでと違って余裕がない。片膝を付いてしまって、上手く力が入らなくなっている。この鍔迫り合い、どこまで保てるか。


 そんな事を俺は考えていたが、どうやら相手は鍔迫り合いにすら付き合う気はないらしい。現れた三人目が、俺に迫って来る。まずい!


「!」


 だが、その三人目が、俺の元にたどり着くことはなかった。その人物と俺との間に割り込んだ人物がいたからだ。その人物は、


「無事かい? バアル」


 第一騎士団副団長ギャランが、愛槍を携えて俺にそう訊いてくる。俺は、相手の剣を押し返すと、ギャランの傍に寄る。


「これが、無事に見えるか?」

「うん。第一騎士団では無事な部類だね」

「判った。お前の騎士団がおかしい事が」


 どう見ても、無事じゃないだろ。


「とりあえず、あれを捕まればいいんだろ?」

「ああ」


 俺とギャランが武器を構えると、フードの人物達は襲い掛かってくるかと思ったが、その場から離れる。ギャランという援軍が来た事によって、計画の変更でも余儀なくされたか、まあ、知らんが。


「いいのかい?」

「ああ、予定通りだ。だけど、援軍がお前とはな」

「僕もいきなり団長から、言われて驚いたよ。まさか、そんな事をしていたなんてね。出来れば、もっと早くに僕も混ぜて欲しかったよ」

「知る人間は少ない方がいいだろ」

「そうだけどね」

「それじゃあ、ここから本番だ」


 俺は懐から、地図を取り出した。

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