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 一応、俺は頼まれた仕事は終わった為、ウーラオリオに戻って来て、またいつもの仕事に戻っていた。だが、正直な話をするのであれば、俺はまだどこか引っ掛かりを覚えていた。そんな風に数日を過ごしていたのだが、マルガスさんからレライーエさんが俺を呼んでいるとの事で、またもや城に行く事になった。


 マルガスさんに詳細を訊いてみたら、どうやら、先の件の報告したいとの事だった。ていうか、マルガスさんも今回の件は、レライーエさんから聞いていたらしい。だったら、教えてくれても…と思ったがもう過ぎた事だ。

 そして、俺はまたもや王城まで来ていた。


「今回は流石に止められませんよね」

「ああ、話は聞いているから、通っていいぞ」


 最初来た時に俺を止めた騎士の人に俺は言うと、今度しっかりと話が通っていたらしく、すんなりと入れた。


「そういえば、以前体調を崩していたみたいですけど、大丈夫ですか?」

「うん? ああ、もう大丈夫だ」

「それは何より」


 俺は、門を潜り城内へと入っていった。以前のように、フィンさんが迎えに来るような事はなく、俺はそのままレライーエさんの元へと向かう。しかし、今回呼び出されたという事は、もしかして、何か進展があったのだろうか。


 先日まで通い慣れた、宮廷魔導士第一師団の団長室のドアを俺はノックした。そして、中からこの部屋の主の声が返ってくる。


「失礼します」


 俺は、部屋の中へと入ると、以前と同じように、いや、むしろまた増えている書類の山を乗せている机の上から、この部屋の主にして、宮廷魔導士第一師団団長のレライーエさんが顔を覗かせていた。


「久しぶり…ではないわね、バアル。わざわざ来てくれてありがとう」

「いえいえ、別に問題はありません」


 レライーエさんは柔和な笑みで俺を迎える。


「それで、今回読んだという事は、もしかして、先日の一件で何か進展があったのでしょうか?」


 俺はさっそく本題を切り出す。

「むしろ、その逆なのよね」

「逆?」


 レライーエさんがため息と吐きながら言ったその言葉に、俺は疑問を返す。


「バアル、あなたも知っている通り、あの日、申請した人物を私達は捕らえた。宮廷魔導士の一人、シルド。騎士団会計部門のサーカルス。この二人をね」


 シルドって人は、俺は面識は無く、レライーエさん曰く、宮廷魔導士第一師団の新人の部類に入る女性らしい。そして、もう一人は書類を用意してくれたあの真面目そうな人だった。


「二人には、それぞれ聴取したのだけれど、二人揃って、記憶に無い、知らない、の一点張りなのよね」

「惚けているという可能性は?」

「どうかしらね。その可能性を否定は出来ないけど、でも」

「でも?」

「私の経験から言わせて貰えるのなら、あれは本当に何も知らないのではないと思っているわ。これについては、フィン団長も同じ意見よ」


 俺はレライーエさんの言葉を聞いて、俺自身が感じていた事も話す事に決めた。


「レライーエさん。俺も正直な話をするのであれば、あの二人が今回の内通者であるとは、ちょっと思えないんです。俺は二人の事をよく知りませんが、少なくとも、騎士団の会計課の人間が、あの時俺が対峙した人物と同一人物だとはとても思えない」


 そう、あの時俺が対峙した認識阻害のフードを被った人物とは、動きや雰囲気など全然違った。それに、


「いくらなんでも、都合が良すぎる気がするんですよね」

「あの領収書が残っていた事がという事かしら」

「はい。あのタトゥーの男が捕まった時点で、レプリカットとの繋がりが露呈するのは時間の問題だったはずです。結果的に言えば、店は即座に無くなり、本人も消されたので、真相は有耶無耶になりました」

「これ以上の追及はないと踏んだからじゃないのかしら。実際、取引の数自体は多くはなかったわ。今回、あの店の事を知っている当事者であるバアル、あなたに頼んだから露呈したようなものよ」

「そうでしょうか? むしろ、今回の王都襲撃で、内通者の存在が疑われる事を判り切っていたはずです。こんな、あからさまな証拠を残すとは…」

裏の住人パンドラ―にしては杜撰過ぎる」


 俺は頷く。確かに、今回は偶々俺が、担当したから、あの店の事知っている俺が来たから、発覚した。でも、それは、遅いか早いかの違いでしかないと、俺は思う。あの店は、騎士団が調査しようとしていた。なら、そこに気付く者がいないとは思えない。だとすると、考えられるのは、


「あれは、敢えて残された物だった」

「恐らくは、あの領収書の名前は何かしらの方法を使って偽造されたものだと思います」

「つまりは、まだ本当の内通者は居る。そういう事ね」


 やれやれと言わんばかりに、レライーエさんは頭を振る。きっと、レライーエさんとフィン団長も考えていた。その確認の為に俺はここに呼ばれたという事だろう。


「俺を襲ったのも、外部からの調査が入ると聞いて、好機と捉えたからだと思います。もし、帳簿などを調べていた人間は、襲われれば、知られたくない物があると言っているようなものです。そして、調べて、その店との取引があった物が見つかる。それには申請した人物の名前が書かれており、その人物を捕らえる。だが、その人物達は何も知らない」

「情報はそこで、終わるわけね。申請した名前があるから物的証拠は残っている。そして、二人は言われもない罪で投獄される」


 俺は首肯する。


「だけど、敵にも誤算はあったわね」

「誤算ですか?」

「今回調査を担当したのがあなただと言う事。襲撃したはいいけど、まさかその標的が元S級冒険者だとは思わなかったのでしょう。反撃を受けた。結果的に、それは自分達の存在をより際立たせてしまった」


 レライーエさんは立ち上がる。


「レライーエさんどこに?」

「フィン団長にこの事を報告するわ。あなたも来る?」

「はい」


 俺とレライーエさんはフィンさんの元へと向かった。



「……」


 俺とレライーエさんの話を聞いて、フィンさんは腕を組んで黙っている。ここは、第一騎士団の団長室、つまり、フィンさんの部屋だ。二人でこの部屋について、すぐにさっきの話をしたのだが、フィンさんは黙って何かを考えている。


 少し待っていると、フィンさんが口を開く。


「儂自身も違和感はあった。お前らの話を聞いて納得出来るが、実際この後どうする?」


 そう、この後なのだ。どう、内通者を見つけ出すか。それが、問題になってくる。


「それについては、私に考えがあるわ」


 悩む男二人に対して、レライーエさんはそう言い放つ。

「えっ、いい案があるんですか?」

「ええ。でも、それにはある人物の協力が必要になるわ」

「ある人物?」

「ある人物というか、その人物が開発した物かしら。それは、バアル。あなたがよく知っている物よ」


 そう言うレライーエさんは笑みを浮かべている。なんだろう、すごく怖いんだけど。

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