⑨

 食堂で二人と別れた俺は、城から出て、ある場所でと向かっていた。昨日の残業の成果は言ってしまえば、あったわけだが。それの裏付けというわけではないが、確認した事があった為、少し出て来たのだ。


 フィンさんは何か判ったのなら、話せと顔に出ていたが、確認してからでもいいだろうと判断した俺は、申し訳なそうにしながらも、こうしてその場所へと向かっているのだ。


 そして、俺は目的の場所、冒険者ギルドへと着いた。さっそく、ここに来た目的の為に、俺はある人物を呼び出して貰う。少し待っていると、その人物は不機嫌そうな顔をしながらこちらへと来た。


「バアル。お前と違って僕は忙しいんだが」


 眼鏡越しに俺に足して、冷たい視線を向けてくる。


「俺だって忙しいよ、ヴァン」


 ギルド職員のヴァンに俺はそう言った。実際俺はここに冷やかしに来たわけではない。


「…それで、何が訊きたい?」


 ヴァンはため息と一つ吐くと、そう言ってくれる。なんだかんだと言いつつも、協力してくれるところが、こいつは良い奴だなと思う。


「ある店の事なんだが…」


 俺はその店の名前を出すと「少し待ってろ」そう言って、どこかに行ってしまった。また、また待たされるのかー。まあ、こっちが頼んでいる手前、何も言えないが。


「待たせたな」

「いや、言うほど待っていないから、大丈夫だ」


 これは、別に相手に気を遣ったとかではなく本当に。


「まずは、今どうなっているかで言えば、あの店は廃業している」

「廃業か」

「ああ」


 まあ、あの事件があって、雇い店主では店の維持は出来なかっただろうし、それに、元々疑惑のあった店だ。本来の持ち主が居なくなれば、そうもなる。


「だが、あの店の事をどうして今、気にする?」

「ちょっとな、今俺が関わっている事でどうしても確認したい事があってな。そうか、廃業しているなら、もう帳簿とかも残ってはいないか」

「まあ、そうだな。」


 もしかしたら、廃業は他の不正の事実を隠す為に、消したのか。


「帳簿の事ならある程度俺は記憶しているが」

「は? お前がなんで?」

「その廃業の手続きをしたのが俺だからだ。お前が、俺にその店の事を訊いて来た時に、覚えていたから。何かあるのではと思って、店主の女と一緒に店まで行き、諸々の書類を見させてもらった」

「そんな事までするのか?」

「色々と理由を付けてだ。お前が絡んでいるから何かあるのでは思ってな。それに、俺自身もあそこはきな臭いと思っていたからな」


 怖っ! だけど、それなら、


「その時、帳簿とかなにか違和感はなかったか?」


 こいつなら、もしかして何かを見つけているのかもしれない。だが、俺の期待を裏切るように首を横に振る。


「俺が見たのは、売上の帳簿だが特に不正と見られる物はなかった。元々、店としてしっかり申請も出していたからな」

「そうか。他は見なかったのか?」

「そんながっつりと見られる時間が無かった。相手の方も急いでいるみたいで、俺にはそれが限界だった」

「そうか」


 収穫は結局無しか。


「だが…」


 落胆する俺にヴァンが口を開く。


「その中でも妙だと思ったのはあった」

「妙?」


 ヴァンは首を縦に振ると、ヴァンが妙だと思って事を俺に話をしてくれる。俺は、それを聞いて、


「ヴァン、ありがとな」

「これが、お前の知りたかった事なのか?」

「ああ」


 お前がギルド職員で良かったよ、本当に。


「なら、今度ヒナドリで何か奢れ」

「お安い御用だ」


 俺は、ヴァンの肩を叩いた。さてと、これからだ。




 俺は、ギルドから急いで戻り、あの部屋の書類をいくつか持つと、その足で、レラ

イーエさんの元へと向かった。部屋をノックすると、中から返事が返ってくる。どうやら、レライーエさんは居るらしい。


「失礼します」


 俺が部屋に入ると、そこには、レライーエさんだけでなく、フィンさんも居た。


「あれ、どうしてフィンさんがここに?」

「お前が、何やら気が付いたのを儂に話さずにどこかに行くから、気になってここで待っていた」

「私としては迷惑な事この上ないわね」


 どこからか、持って来たのかイスに座って、堂々としているフィンさんを見て、レライーエさんが苦々しく見ている。


「まあ、俺としては、呼んでくる手間が省けたので、いいですけど」

「という事は、何かを見つけたという事ね」


 俺は頷く。


「じゃあ、聞こうかしら」

「まずは、これを見てください」


 俺は、作業していた部屋から持って来た書類と領収書を見せる。


「これが」

「何だと言うのだ?」


 二人に、それぞれの内容を見せたが、反応は芳しくない。それはそうだ、この領収書や見せた書類は特に不備はない。ただ、


「この領収書の発行された店の名前が問題なんです」


 レライーエさんはどうもピンっときていないが、フィンさんは聞いた事があるだろうが、思い出せないって感じだ。


…この店に何が?」

「儂はこの名前に聞き覚えが…」

「あるでしょうね。だって、この店を騎士団は調査しようとしたはずです」

「騎士団が?」


 そうこの店を騎士団は調査しようとした。だが、店はその前に廃業の手続きをした後だった為に、結局それは行われる事はなかった。それに、


「その店に関連した人物が牢の中で暗殺された。誰の仕業か、どうして殺されたのかばかりに意識がいっていた、だから、店の名前まではあまり印象に残っていなかったのでしょう」


 俺の言葉に、フィンさんは気が付いたようだ。


「なるほど。あの、魔剣消失の時の男か」

「ええ、そうです」


 タトゥーの男、奴が裏の店主をしていた店がレプリカット。違法に入手した武器や魔道具を裏に横流ししていた男。おそらく、裏の住人と繋がりのある人物だったか。裏の住人だったか。


「つまり、こういう事ね。その違法な店と私達宮廷魔導士が取引をしていたと」

「おそらくはそうでしょう。領収書には備品の購入とし、さらに判りづらいように、ほぼ適正の価格でそれらを取引していた。そして、それは騎士団の方も同じでした」

「それが、昨日お前が見つけた事か」

「はい」


 肯定した俺は、そのまま続ける。


「あの店は裏の住人にとっての資金源の一つだった。そして、ウチの職員がそうだったように、宮廷魔導士内にも騎士団にも、あそこと関係がある事が判りました。そして、今日ギルドで確認してきました。俺の優秀な友人が、帳簿の一つを見て覚えていました。その中に、宮廷魔導士と騎士団に、武器や魔道具の販売の記載があったそうです」


 最早それで、確信になった。領収書の備品は、違法に入手した武器や魔道具を購入し、それが資金源となっていた。


「それで、重要なのはそれを購入していたのが、誰かという話になるわね」

「それは、そっちの書類に申請した者の、名前が記載されています」


 それを確認した、二人はすぐさま人を呼び、その者達を捕らえるように命じた。

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