⑦

「それで、どこに行くんですか?」


 レライーエさんに追いついた俺は、質問をするが、


「そこは着いてからのお楽しみね」

「別に隠す必要はないと思うんですけど…」


 そんなやり取りをしていると、城内でも、開けた場所へと到着する。その場所には、装備一式を着ている騎士団の連中が、訓練の最中だった。ここは、訓練所か。


 騎士団の連中は、剣と剣で立ち合いをしたり、あるいは、弓で標的に向けて射ていたり、あるいは、一人がもう一人を背負って、走らされていたりと、見ていて、なんとも過酷だと思ってしまった。スサノとクシナダの訓練もこれくらいした方がいいのだろうか、などと考えていると、俺の想像のスサノとクシナダが首を横に振っている姿が浮かんだので、要相談案件としておこう。


 そんな事を考えていると、レライーエさんはある人物の元へと向かう。その人物は、全体の訓練を見渡せる位置におり、この騎士団においてもっとも威厳を感じる人物でもあった。


「フィン団長」


 レライーエさんは、その人物第一騎士団団長のフィンさんの名前を呼んだ。この人がレライーエさんの言っていた、もう一人の人物という事か。


「うん? おお、レライーエ、どうした?」

「少し、いいかしら」


 レライーエさんの真面目な雰囲気を察したのか、フィンさんは隣の人物、恐らくだが、側近の人物に訓練の継続を言うと、


「では、儂の部屋で聞こう」


 そう言って、先導していく後を俺とレライーエさんは付いて行く。団長室は、レライーエの内装と大して変わりはなかったが、違いがあるとすれば、あちらは。壁一面に棚で埋め尽くされていたが、むしろこちらは必要最低限の物しか置いていない。意外と質素なんだな、フィンさんは。


「それで、話ってのはなんだ?」


 ドカッとイスに座るフィンさんに、レライーエさんは俺を見る。えっ、俺から説明するんですか⁉ レライーエは微笑むと、頷く。ええー、そこはレライーエさんが説明する流れでは? まあ、いいですけど……俺は、昨日の出来事を話し始める。


「なるほどな」


 俺の話を聞いたフィンさんは組んでいた腕を解くと、軽く右手で顎を撫で、レライ

ーエさんを見る。


「レライーエ、どうやらお前の読みが当たったな」

「ええ」


 俺の話に驚くどころか、どこかそうなる可能性がある事を知っていたという感じの反応をするし、レライーエさんの読みって……やっぱり、レライーエさんもこうなる事可能性を知っていたと事か。


「そろそろ、聞かせて貰いますよ」


 俺は堪らず、二人に訊く。実害が出ているのは俺だ。それなのに、何時までも、事情を知らないというのは、嫌だ。

 二人は、お互いも見やると、レライーエさんが口を開く。


「バアル、まずは謝罪するわ。あなたを巻き込んでしまった事。そう、あなたが思っている通り、今回の件は私とフィン団長が考えた事よ」

「一体なんの為にですか?」


 宮廷魔導士第一師団団長と第一騎士団団長の二人が動くなんて、そうそうある事態じゃない。


「こうなった経緯を話すのであれば、まずは、先日の王都襲撃の話になる」

「それと今回の件がどう関係してくるんですか?」

「バアル、当然あなたも知っている通り、前回のモンスター襲撃の際、王都の結界が裏の住人によって切られたわ」


 知っているも何にも、その場で裏の住人と交戦したのは、俺と同じクランで働く元冒険者仲間のベリトだ。その話も当然聞いている。


「そこで、疑惑が出てくるわ。どうやって裏の住人は、結界を発生させるあの魔道具の場所を知り得たのか」


 そう言えば、どうして奴らは、あの場所に結界の魔道具がある事を知っていたんだ? あの魔道具の場所はそれこそ一部の人達が知っていない。所謂機密情報に近い扱いのはず。それなのに、奴らはそこに侵入して、結界を切った。そこから、考える中で、最悪な答えを俺は思い至ってしまった。


「まさか……内通者がいた」


 俺の言葉に、二人は何も言わないが。その無言こそが肯定を意味している事を俺は即座に理解した。


「あの魔道具の場所が外部に漏れる可能性があるとすれば、その可能性が一番高いと儂らも思った。しかし、一部の人間しか知らんとは言え、一体誰がその情報を流したのか、その証拠も見当もつかなんだ」

「ただ、言えるのは、その可能性が高いのが、宮廷魔導士かもしくは、騎士団だと私達は考えたわ。でも、手掛かりはほとんど無いような状態だった。そこで、こちらから何かしらの動きをしてみようという話になったの」

「つまり、それが、今回の外部監査だったわけですか」


 レライーエさんは頷く。


「でも、なんで監査なんですか? 他にもあぶり出す方法は色々あったのでは?」

「当然他にもいろいろと試しているわ。バアルの今回の件もその一つ。もしかしたら、帳簿や数字で何かしらの痕跡が残っているのはと思ったの。プルーティアから聞いたけれど、消えた魔剣の時はそれで、発覚したんでしょ」

「あれは、本当に偶然見つかっただけですよ」

「その偶然を、儂達も期待したわけだ」

「で、結果的に動きはあったという事ですか。なら、せめて一言言ってくださいよ。何も知らないまま、あの世とか勘弁なんですけど」


 いや、割かし冗談抜きにして。


「それについては、ごめんね。まさか、動きがあったとしても、まさか即襲撃とはね。まあ、あなたならなんとでもなるでしょ」

「そうだ、お前なら、そこらの輩に負けるなどという事はあるまい」


 レライーエさん、本当に申し訳ないと思ってます? あと、フィンさん、笑って誤魔化さないでくれますかね。


「しかし、お前を襲ったその者らは、魔導士と剣士。だとするならば、ほぼ決まりのようなものだろう」


 俺は、持って来た『魔法のマジックバッグ』から、昨日の襲撃者が落とした剣を、フィンさんに渡す。フィンさんはその剣を、持ち一通り見ると、


「剣自体は、どこにでもある物だな。特別な銘の物でもない。つまり、残しても問題の無い物という事だろうな」

「でしょうね。ですが、剣士の方は、対峙して判りました。あれは、暗殺者や冒険者のような我流の剣技ではなく、訓練された者の剣です」


 昨日の戦い、俺は気付いた。あのフードの剣は、言ってしまえばまっすぐ過ぎて綺麗な剣筋だったのだ。そして、その剣は騎士団の剣とよく似ていた。


「それに、レライーエさん。今回、俺がこうして宮廷魔導士第一師団に来る事を知っていたのって…」

「私の部隊の人間くらいね」

「だとすると、お二人の考えは、間違っていなかった。内通者は、この城の中にいます」


 その言葉に二人は揃って、ため息を吐く。


「やれやれ、覚悟しておいたとはいえ」

「ああ、大問題だな」


 国を護るはずの人間が、その国を襲う側に回ってしまっては、本当に問題だ。下手すれば、この街に住む人達からの非難は免れないし、信頼も揺らぐ。そして、引いては、国自体にも…。


「もう、そこはしょうがない。儂らは早くその裏切り者を見つける必要がある」

「それについては、バアルが何か気付いたんじゃないかしら?」


 レライーエさんは相変わらず鋭い。俺は、さっきある事に気付いた。だが、その為にはまだ確認しなきゃいけない事がある。


「その事を話す前に、フィンさん」

「なんだ?」

「第一騎士団の帳簿関係も拝見させてください」

「いいだろう」


 俺の言葉にフィンさん、即決する。


「話は、儂から通しておく。今日見るか?」

「出来れば」

「しばらく待っておれ」


 そう言うと、席を立ち、フィンさんは部屋から出て行く。


「私は仕事に戻るわね」


 レライーエさんもそれに続くように、部屋を出て行こうとする。ドアを開け、出て行く直前に俺の方を見て、


「吉報を待っているわ、バアル」


 そう言って、部屋の外へと消えていった。それと、入れ替わるように、フィンさんが戻ってくる。てか、早くないか。


「待たせたな、会計の連中には話は通したぞ」

「ありがとうございます」

「レライーエの奴は戻ったか。まあいい、バアル、付いてこい」

「はい」


 俺は、フィンさんの後に付いて行く為、部屋を後にした。

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