⑥
街中を歩いていると、良い匂いに誘われる。お腹が食べ物を求めている。どうするか、ヒナドリにでも寄って行くか。などと、考えていた俺は、いつの間にか裏路地に入っていた。周りに人の姿は無い。
別に、こっちの道が近道だから入ったわけでも、俺の家がこの辺りというわけでも、決してない。さてと、どう出てくるか…俺は、路地裏の奥に進んでいく。
そして、本当に明かりすらも微かに届くか届かないぐらい奥に入った瞬間、俺は
俺の居た場所に、何かが当たり土煙と所撃音が響く。今のは、魔法『
認識阻害が掛けられているな。
その人物が男なのか女なのかどちら判らない。だが、判るのは目の前の人物が魔導士であり、俺に対して敵意を持っているという事だ。
「さっきから、俺の後を付けて来ていた目的は……訊いても無駄か」
一応相手に話し掛けるが、当然相手からの返答はない。その代わりと言わんばかりに、相手の『
問答無用かよ。俺はその刃を躱し続ける。この魔法の威力、本気か。なら、こっちも問答無用でいかせてもらおうか!
俺は、
だが、相当なやり手だな。あの一瞬で、『
壊れた空き家に近づこうとした俺は、咄嗟にしゃがむ。俺の首の位置にヒュンッとを風切り音が鳴る。しゃがみこんだまま、後方に回し蹴りを放ち、何かを蹴り飛ばす。俺は、すぐにその何かを確認する。
「おいおい、仲間がいるのかよ」
その何かは、俺が殴り飛ばしたフードの人物と、同様に認識阻害の掛かったフードを着た別の人物だった。だが、決定的に違いがあるのは、後に現れた人物は、剣を持っているというところか。
というか、こいつも躊躇なく、俺の首を刎ね飛ばそうとしやがった。そんな恨まれるような事、今までして生きては………きていないとまではいかないが、なぜ、今なんだ?
「!」
そんな事を考えていると、俺の上に、炎の塊が出来る。おいおい! 俺は、その場から離れると、すぐさま爆発が起きる。
『
そして、逃げた先には、剣先が俺に迫ってきた。くっ! 間髪入れずに攻撃を仕掛けてくる。眼に身命を集中させ、縦、横薙ぎの攻撃を全て躱していく。この剣筋、しっかりと訓練を積んだ人間のそれか。だけど、しっかりと見えているから何の問題もない。
「今度はこっちの番だ」
相手の剣を持っている手を思いっきり蹴り上げる。
「ぐっ!」
うめき声と共に、相手は剣を手放す。今の感触、骨が折れたろ。フードを被った魔導士が、怪我をしている方に近寄る。
「まだ、戦るか?」
何かを言い合った後、フードの人物達はその場から消えた。追うか? いや、深追
いは危険か。落ちた剣を拾いながら、俺もその場を後にした。
昨日の襲撃から明けた今日も、俺は変わらず城を目指して、歩いていた。結局の所、なんで俺は襲われたかについては、理由は定かではない。でも、恐らくは、いや、間違いなく、今回の件が関わっているんだよな。俺は、肩から下げている『
だけど、襲われるほどの事なんて、昨日の段階では無かったはず。もしくは、これから発見されるのかも。気が付けば、門の前まで来ていた。
「お疲れ様です」
俺は門の前に居る、騎士に挨拶をする。今日は、昨日のように止められはしなかった。
「あれ、今日は担当の人違うんですね」
昨日俺を止めた人物とは違っていたので、俺は今居る騎士の人に訊く。
「今日は、体調を崩してな。知り合いだったか?」
「いえ、少し気になっただけです。早く良くなると良いですね」
あの頑固な騎士は、今日は休みとは、俺も体調管理には気を付けねば。守衛の騎士に別れを告げ、レライーエさんの元へと向かった。部屋をノックしたが、返答はなく、どうやらこの部屋の主は留守のようだった。さて、どうしたものか。
部屋の前で立ち尽くしていると、カールさんがこちらに向かってくるのが、見えた。
「おはようございます、カールさん」
「おはようございます、バアルさん。団長に御用ですか?」
「はい」
「でしたら、すいません。団長は、会議で今は不在なんです」
「そうでしたか。なら、昨日の続きをしても?」
「はい。資料はそのままにしてありますので」
「ありがとうございます」
俺は、カールさんに礼を言って、昨日の部屋へと向かう。昨日の事をレライーエさんに報告したかったが仕方ない。先に、向こうの方から片付けてみるか。
部屋へと到着した、俺は。さっそく、また山へと挑む。しばらく、見ていくと、俺はある領収書に目が留まった。この領収書…その領収書の内容としては、備品の購入となっていた。金額的に見て、魔導士が使う装備品か何かだろう。内容に問題はない、だが、問題はそこじゃない。俺は、他にも同じような物がないか探した。昨日は、計算に重点を置いていて、気が付かなかったが、もしかすると、他にも……案の上昨日見た中にも、同じような物を見つける事が出来た。
もしかしたら、これが、俺が昨日襲われた理由なのか? そうだとするなら、襲撃した犯人は……そんな事を考えていた俺は、部屋のドアがノックされた事によって、意識を戻される。
「失礼します、今大丈夫でしょうか?」
ノックをした主は、カールさんだった。
「はい、大丈夫です。どうかしましたか?」
俺は広げていた、領収書や資料の類を片付けながら、訊く。
「団長の会議が終わったので、報せに来たのですが、どうしますか?」
恐らく、先ほど会えなかったから、今会うかどうかをわざわざ聞きに来てくれたのだろう。とりあえず、昨日の事や今判った事を共有はしておいた方がいいだろう。
「お願いしてもいいですか?」
「判りました。少しお待ちください」
そう言ってカールさんは出て行く。しばらくすると、カールさんが戻って来て、
「レライーエさんの方は問題ないそうです」
「判りました」
俺はカールさんの後に続いて、レライーエさんの元へと向かう。団長室に着くと、カールさんはその場から離れ、俺はドアをノックする。
「どうぞ」
中から、レライーエさんの声が返ってきたので、「失礼します」俺は部屋の中へと入っていった。
レライーエさんは変わらず、座っているが、なんだか机に乗っている書類の山が一層険しくなったと思うのは、俺の気のせいなのだろうか?
「おはよう、バアル」
「おはようございます」
挨拶を済ませると、俺はさっそく昨日遭った出来事を話し始める。レライーエさんは、特に驚いた様子もなく、俺の話を聞いている。
「そうですか」
「驚かないって事はある程度こうなる事は予想していたという事ですか?」
俺の話を聞いても、どこか冷静なレライーエさんに俺は訊く。
「ええ」
ちょっと待ってくれ。なんにも誤魔化す事なく平然と肯定したぞ。この人。
「あんな危険な目に遭うだなんて聞いていないんですけど…」
俺が聞いていた仕事の内容と全然違うんですけど。
「あなたにとっては危険でもなんでもないでしょうに」
「いやいや、相手、明らかに俺の命を狙ってましたからね! 警告の為に軽く襲いましたとかじゃなくて、がっつり殺意こもってましたよ」
あれが危険じゃないなんて事はけっしてない。
「冗談よ」
「その冗談は、笑えませんよ」
もう本当に勘弁して欲しいところではある。
「そろそろ、教えて貰っていいですか? どうして俺をここに、というか今回こんな事を頼んだのかを?」
「そうね。実際動きはあったわけだし、話をしてもいいのかもしれないわね」
ようやく、俺はレライーエさんから今回の真意を聞けるわけか。
「その話をする前に、もう一人話をしないといけない人物がいるわね」
えっ、まだ延ばすんですか? というかもう一人って、誰?
「じゃあ、その人の所に行きましょうか」
レライーエさんはそう言って席を立つと、スタスタと歩いて、部屋から出て行く。ポツンと取り残された俺は、
「ちょっと待ってください!」
急いで、彼女の後を追うのであった。
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