⑩

 冒険者ギルド、ここはその名の通り冒険者がここで登録することで、初めて冒険者である事を保証される。なので、この場所はバンクとは違って、いる人の層が全く違い、ここにいる人のほとんどがギルド職員を除けば、冒険者かもしくは冒険者関係の人だ。


 俺は、受付に行くと、ある人物を呼んでもらえるように頼んだ。そいつは、今は特に忙しくないと言っていたので、案の上、少し待っていてくれとの事で、俺はギルドの隅で待っていた。


「まさか、昨日の今日でお前から呼び出しを受けるとは思っていなかった、バアル」


 俺が呼び出してもらった人物は、昨日ヒナドリで同じテーブルで夕食を食べた仲の、ヴァンである。


「わるいな、仕事中に」

「そう思うなら、最初から仕事終わりに来ればいいだろう」


 なんとも遠慮のない言葉、まあ、それだけ打ち解けられていると思う事にしよう。


「それで、何の用だ」


 憎まれ口を叩きつつもしっかりと、話を聞いてくれるあたり、優しいやつだな。


「ミノカタルって店について何か知らないか?」


 冒険者ギルドでなら、ロープスさんでも知らない情報を持っているかもしれない。


「ミノカタル……そういう武器屋があるのは知っているが、それがどうした?」

「その店って、どういう店なんだ?」

「どういうって、別になにも変わらないどこにでもある武器屋だ」

「特に目立ったものがないって事か」

「良くも悪くもな」


 新しく出来たとロープスさんは言っていたし、まだそこまで広まっていないだけなのだろうか。


「その店がどうかしたのか?」

「ああ、ちょっとこっちの仕事関係で、その店について調べていてな。まあ、ギルド職員であるお前がそう言うなら事は、少なくとも目につくような店ではないということか」

「だが、逆に怪しくもある」

「というと?」

「経営する立場になってみろ。新しく店を始めたのに、まったく話題にも上らない。それは、店側からしてみれば死活問題だ。なんとか、売上をたてようと、必死に様々な事をするはずなのに、未だにそういった動きがない」

「確かに。ということは、そんなに頑張らなくても、もうどこかと契約としていて、売上が出る算段がついている」

「いや、そこの店と契約した冒険者とクランはない」

「うん? そうなのか、しかし、よく把握しているな」

「仕事だからな」


 一応、冒険者やクランは、武器屋や道具屋などの店と専属契約をしたりする場合は、ギルド立ち合いの元に行われる。これは、契約に対して、公平性を保つ為である。その、ギルドの人間がいないというのであれば、間違いない。


「なら、道楽でやっているとかか、もしくは……」

「あえて、目立たないようにしている」


 目立たないようにしているとなると、なぜ、そうしているのか、そうしなくてはならないのか。やれやれ、だんだんきな臭くなってきた。本当に厄介な事に巻き込まれている、間違いなく。はあ、安易に受けなければ良かった。


「悪いが、その店がどこにあるのか、判るか?」

「ああ。待っていろ」


 ヴァンはそう言うと、どこかへと行ってしまった。今度は、さっきほど待たたされ

る事はなく、ヴァンはすぐに帰ってきた。


「これが、ミノカタルの場所だ」


 そう言って俺に渡してきたのは、その店の場所が描かれた地図だった。てか、これ手書きじゃねえか。あの短い時間で描いてきたのか、こいつは本当に優秀だな。


「助かる。ついでに、従業員って何人いるかとか、判るか?」

「あそこは、店主が一人だけだった思うが」

「ありがとな」


 俺は、貰った紙をポケットに仕舞う。


「じゃあ、僕は仕事に戻る」

「おお。あっ、最後に一ついいか?」

「はぁ、なんだ」

「レプリカットって店覚えているか?」

「また、懐かしい名前だ。覚えてはいるが、あまりいい覚えではないが」


 ヴァンの言い方と表情から、本当に悪質な店だったことが判る。だとすると、ロープスさんに聞いたあの話に信憑性が出てくるな。訊くのはありだな。


「聞いた話によると、裏の住人パンドラーと繋がっているって聞いたが、本当か?」


 俺のこの質問にヴァンは、仕事に戻ろうとしていたその足を俺の方に向き直すと、俺にだけに聞こえるように、訊いてくる。


「どこで聞いた?」

「その口ぶりだと本当なのか?」


 質問に質問を返す形になったが、ヴァンはため息を吐くと、辺りを伺い、言う。


「噂程度だが、こっちの方で調査を始めようとした矢先に、店は廃業、店主も雲隠れして、結局真相は判らず仕舞いってのが、本当ところだ」

「ヴァン、お前の印象は?」

「…おそらく、黒だ」


 そんな怪しい店とウーラオリオが一時的にでも、契約していたかと思うと、本当に恐ろしい限りだ。しかし、そうなってくると、その店を担当していたダリアにも疑念を持ってしまう。そして、そこと食事をしたという、ミノカタルという店も。やっぱり、実際に行ってみるのが早そうだ。


「その雲隠れした店主は覚えているか?」

「ああ、特徴があるからな」

「特徴?」

「ああ、うなじにタトゥーがある。借りるぞ」


 ヴァンはそう言うなり、さっき俺に渡した地図を手に取ると、持っていたペンで何かを描き始めた。そして、描き終わると、俺に返す。そこには、人の瞳の絵が描かれていた。てか、上手い。


「何度もありがとな。呼び止めてわるかった」

「別に構わない。気を付けろよ」

「あいよ」


 ヴァンは今度こそ仕事に戻っていった。さて、俺も向かうとするか。


 ヴァンに描いてもらった地図の場所に来た。店は表通りではなく、あま立地が良いとは言えない場所にあった。見た感じお世辞にも、賑わっているという雰囲気ではない。店は開いてはいるみたいなので、俺は店のドアを開ける。店内には、客はおらず、カウンターにも従業員の人はいなかった。


 店内をざっくりと見てみるが、ロープスさんの店と違い、品揃えが、言ってしまえば悪過ぎる。店の武器や防具には薄っすらと埃が溜まっている。本当に商売をする気があるのだろうか。


「すいません」


 カウンターには奥に続く空間があり。俺はそちらへ声を掛ける。すると、けだるそうな雰囲気の女性が出て来た。


「はーい」


 この人がこの店の店主なのか? かといって他の人物が来る様子もない。


「少し店内の商品を見ても?」

「どうぞー」


 欠伸まじりにそう言われてしまう。おいおい、大丈夫か? 俺は店内の商品を見ながら、女性を観察する。若い女性、俺と同じか、もしくはそれよりも若い。


「つかぬ事を伺いますが、あなたがこの店の店主ですか?」

「はい、そうですよ」


 どうやら、本当にこの人が店主らしい。


「女性で、こういった店を経営されているのは、珍しいですね」

「まあ、そうですよね。でも、楽なんで」

「楽ですか…でも、こういった商売ってそれこそ、専門的な知識が必要そうに見えますが」

「なんか聞かれても適当に返していいて言われてるし、私はただ言われた通りにしているだけなんで……」


 途中で彼女はしまったという顔をして、話すのを止めてしまう。


「えっ、どういう意味ですか?」


 ヴァンから聞いていた情報と違う。俺は訊くが、彼女は明らかにやってしまったという表情をするだけで、口を開いてくれない。さて、どうしたもんかな。ここで、不審がられても後々面倒な事になってもしょうがない。


「ああ、もしかして、助言してくれる方がいて、その方と共同で経営していて、あなたは店主として、もう一人の方は店にある武器などを仕入れたりする専門の方で、判らない事があればその方に確認するという事ですか」

「ま、まあ、そんな感じですねー」


 俺の今考えたどうでもいい話に、彼女は明らかに違うだろうに、同意を示す。


「その方は、今日は店にはいないんですか?」

「今日はたまたま、いなくて」


 さっきから、彼女は俺と目線を合わせようとしない、明らかに嘘だろう。なんとなく、この店の事が判ってきた。


「そうですか、もしかして、その人ってうなじにタトゥーとかあります?」

「えっ」


 俺の言葉に彼女は明らかに反応する。どうやら、当たりのようだ。


「いえ、実は先日この店に入店される人を見て、その人のうなじにタトゥーがあったので、もしかしたら、そのもう一人の方なのかなって」


 と俺は適当な嘘を言う。彼女の方は少しだけ俺に警戒を持ったのか、疑うような視線を向けてくる。長居は無用だな。


「うーん、どうやら、ここには、求めている武器はなさそうなので、これで失礼します」


 俺は、そう言うと、店を出る。はあ、いろいろと繋がってきたな。しかし、最後の方は変に疑われるような事をしてしまった。もしかしたら、向こうの方から何か仕掛けてくるかも。もしくは……。


 俺は一度、クランの方に戻る事を決めた。マルガスさんに、報告はしておいた方がいいだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る