⑨

 俺は、ある店のドアを開ける。開けた瞬間、ベルの音が来客を告げた。


「すいません」


 俺は店の奥に呼び掛ける。すると、店の奥から、先日バンクで会った作業着姿の男性が出て来た。


「おや、君がここに来るなんて珍しいね」

「お邪魔してます、ロープスさん」


 いつもの優しい表情で、ロープスさんが俺を出迎えてくれた。

 ロープスさんの店は、いつもながらに整理されている。そして、なにより扱っている商品の質が本当に良い、常に手入れをされているのが一目で判る。


「それで、今日はどうしたんだい?」

「ええ、実は訊きたい事がありまして、ミノカタルって店知っていますか?」

「ミノカタル……そういえば最近そんな名前の武器屋が出来たと聞いたけど、ウチとは付き合いがないからよく判らないな」

「そうですか」


 しっかりと実在はしているのか、という事はダリアが苦し紛れに出した嘘の店名ではないという事か。


「じゃあ、レプリカットって店は覚えていますか?」

「ああ、そっちはよく覚えているよ。こっちの業界でも評判が悪くてね。武器や魔道具は性能の割に値段は高いし、製造元には原価よりも下の値段で仕入れようとしたりするから、困ったもんだったよ。でも、どうしてそんな事を?」

「ちょっと気になる事があったものなので、詳しそうな人に訊こうかと思って、ロープスさんのところに来たんです」

「だとしたら、あまりいい情報は持っていないな。申し訳ない」

「いえいえ、そんな事はありませんよ」

「あっ、でも、さっき言った事とは別に噂を聞いた事はあるかな」

「噂?」

「なんでも、レプリカットの店主は裏の住人パンドラ―と繋がっているって」


 裏の住人パンドラ―か。法を犯してでも、貴重な武器や魔道具をあらゆる手段を用いて入手し、それを法外な値段でやり取りをする連中だが。しかし、そんな噂があるところと一時とはいえよくウチと契約する事が出来たものだ。


「それはなかなか面白い情報ですね」

「面白いかどうかは、判らないけどね」


 そういう事が判っただけでも、ここに来た価値はあった。あ、そういえば、もう一つこれとは別に気になっている事があった。


「話は変わりますけど、魔剣は誰に売るか決めたんですか?」


 昨日聞いた時は、迷っているという話をしていたが、もう決まったのだろうか。


「いえ、実はまだなんだよね」

「まあ、昨日の今日ですからまだ、決まるわけもありませんよね」

「そうなんだよね、悩ましい事に。そうだ、良ければ、少しだけ見てみるかい?」

「いいんですか?」


 と言ったものの、ちょっとは期待していたのは内緒だ。


「少し待っていてくれ」


 そういうと、ロープスさんはまた店の奥に消えていった。魔剣か、いったい今回の魔剣はどんな魔剣なのだろう。

 しばらく待っていると、ロープスさんが鞘に収まっている剣を一振り持って来た。


「待たせたね」

「いえいえ」


 カウンターのテーブルの上に丁寧に置かれたその剣は、両手剣で、鞘も剣の柄に合わせた装飾になっているので、これもいっしょに造られたものか。


「この魔剣は、どんな魔法が?」

「ちょっと、待ってくれるかい」


 ロープスさんは剣を掴むと、そのまま鞘から剣と抜く。刀身が光に反射した。うん、いい剣だ。

 ロープスさんは剣の柄を握ると、身命を使うのが判った。そして、それに呼応するように刀身が光ったと思うと、刀身が炎に包まれた。


「この魔剣は炎の魔剣ですか」


 魔剣は魔導士によって魔法が付与されている、正確に言えば魔法が発動する術式が付与されている。本来であれば、魔力をその術式を通して魔法という現象になるが、魔剣や特殊な魔道具は、魔力ではなく、身命を術式に通して発動することが出来るようになっている。なので、魔力を持っていない人でも、扱えるようになっている。だが、その技術自体が一般的に広まっているわけではないので、こういうものは貴重なのだ。だが、魔力を使った魔法には劣ってはしまう。あくまでも、使えるようになるだけである。

 ロープスさんが、剣の炎を消し、剣を鞘に収める。


「いい魔剣ですね。他の魔剣も同じですか?」

「そう聞いているよ」


 炎の魔剣なら、攻撃力も申し訳ない。冒険者なら喉から手が出るほど欲しい一品だ。


「いい物を見せてもらいました。ありがとうございます」

「まあ、あまり力になれなかったから、これくらいは」

「充分すぎます」


 俺はロープスさんに改めて礼を言うと、お店を出る。ミノカタルについてはあまり情報を得る事は出来なかったけど、意外にもレプリカットについては意外な事を知れた。さて、次にこの手の情報を知っていそうなやつに会いに行くか。

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