⑦

「ウーラオリオは順調そうだな」


 料理を堪能している俺に、今度はサラダを食べているヴァンが言う。


「そうだな。最近は依頼の失敗も少ないし、失敗したとしても重大な怪我を負う冒険者もいないから。安定はしているな」

「ギルド内でも、話題になっている。あそこは所属している冒険者も多いが、安定しているし、もしかしたら、久しぶりにS級冒険者が出てくるかもって」

「アストレイアの事か」


 ここ最近S級までいった冒険者はいない。A級は何人もこの国にいるが、それでもS級は現在この国に五人しかいない。まあ、このまま順当にいけばなれる可能性は充分にあるだろう。


「そうなると、ウーラオリオはますます、大きくなる」

「だな。でも、その分俺達の仕事も増えるから、出来れば、俺の部署にも早く人が入って欲しいよ」

「それは、ギルドも同じだな。年々冒険者を志す者は後を絶たないが、その代わりにそれを支えるお前や僕のような人材は中々に入ってこない」

「冒険者は命掛けてるし、報酬の割合もでかいからな。なにより、ロマンがある。下手すれば一攫千金も夢じゃない」

「それで、命を落とされてはこっちがたまらない」 


 ヴァンはため息を吐く。実際、冒険者は稼げるそんな風に思われているが、実際は稼げるようになるまでが、大変なのだ。実際稼げるようになるのは、C級になってようやくといったところだろう。


 D級やE級は簡単な依頼が多いが、報酬の単価が安く、準備などの費用で達成したとしても手元に残るのはいくらかぐらいだ。なので、数をこなしていくしかない。しかし、中にはそれに我慢する事が出来なくて、ダンジョンに潜るやつもいるが、ダンジョンは常に不測の事態が起きやすく、それに対応できるまでに成長していない冒険者が亡くなるなんて事もある。


 なので、ギルドは基本的にダンジョン攻略を単独ならC級になってから、もしくはパーティーでの攻略を勧めているが、そういった考えを持って行動してしまう冒険者がいる。ギルド職員としては、悩ましいだろうな。


「そうだな、出来れば命を第一に仕事をして欲しいっていうのは俺も同感だ。クランからしても、将来がある冒険者は貴重な人材だし、それにしっかりと依頼を達成してくれないと、クランを維持する事が難しいから。堅実にこなしてくれる人は助かるからな」

「それはギルド側も同じだ」


 クランは冒険者の依頼達成報酬によって、運営されている。身の丈に合わない依頼やダンジョン攻略によって、失敗が続いてしまっては、お金も人も離れてしまい、最悪クランが崩壊してしまう。それに、クランのメンバーは仲間でもある、その仲間が命を落として欲しくないというのが本音だ。


 ギルドも国が運営しているとはいえ、冒険者の依頼達成率が低くなれば、それだけそれを斡旋したギルド側に冒険者とそれを依頼した人達の不満が向いてしまう。仲介にたつとはそういう事だ。それに、現金な話をすれば、依頼で提示されている報酬の何割かは、税金で天引きされての提示なので、達成されなければ、そのお金も入ってこないので、依頼の失敗は少ない方がいいのだ。


「僕はこの辺りで失礼する」


 いつの間にか、ヴァンは食べ終わったらしく、さっきまで皿の上にあった料理は綺麗になくなっている。


「おう。と、その前に…」

「?」

「ヴァンお前さ、魔剣がロープスさんの店にあるのは知っているか?」

「ああ。ギルド内でも久しぶりに魔剣が造られたと話題になっていたから」

「ロープスさんいわく、造られた魔剣は3本らしいんだが、その内の1本が行方不明らしい」

「どういう事だ?」


 俺はロープスさんとの日中での会話を話す。俺の話を聞きながら、ヴァンは何かを考えているみたいだ。


「消失か……魔剣を造った側は何も言っていないのか?」

「そこまでは訊いてはいないが……もし、なにかあれば真っ先にギルドに話がいくはずだろ」

「それはそうだ。だが、そんな話ギルドにはきていない、という事はやはり裏に流れた」

「まあ、そう考えるのが自然だな」


 魔剣のような希少価値が高い物は、公的に取引をすれば記録が残り、誰が誰に売ったなんて情報が出回る。だが、中にはそういった事を表に出したくない、つまり後ろめたい事情なんかがある場合は、裏取引で記録が残らないようにする、そういう専門的な事を得意とする連中がいる。

 当然違法な方法で行われるのだが、こういうのは表に出にくので捕まるのも容易ではない。


「判った。こっちでも調べてみよう」

「助かる」

「魔剣の制作側が騒いでいないといのが気がかりではあるが…」

「作った側は普通に売った感覚なのかもな」

「それで、悪用されでもしたらどうする」

「それは、使用者の問題だと思っているんだろ。道具はその人物がどう使うかで決まる。悪いのは生み出す者ではなく、それを生かす者だと」

「誰の言葉だ?」

「昔からの友人」

「そうか」


 ヴァンはそれだけ言うと、席を立ち、離れていく。魔剣の消失はヴァンが調べてくれるから大丈夫だろう。しかし、その話を聞いた時から何やら嫌な予感がしてならないのは、俺が心配性なだけか。


 そんな悪い考えを振り払うように、俺は目の前にあるシチューを食べるのであった。

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