④
俺は書類の入った鞄を持って、ある場所を目指していた。その場所は俺達のクランの建物なんかよりもはるかに大きく、二階建てではあるのだが、滅茶苦茶に広い。何より、人の出入りは激しい。
『バンク』この建物はそう名称されている。バンクの役割は、個人、クラン、商会の金ならび貴重品の類の貯蓄貯蔵、引き出し、さらにはお金の貸付などもしている。個人でもいくらかの資産は持っているが、それを保管するとなると、当然家に置いておくには、危険だし、ずっと自分が持っているわけにもいかない。そこで、このバンクを利用するのだ。このバンクの金庫はそれこそ、何重にも結界魔法が掛けられている上に、専門の警備人か常駐しており、その実力はA級に匹敵するほどだ。
過去、このバンクに盗みに入った馬鹿な連中は数多くいるが、みな捕まっている。いや、そういえば過去に例外もいたっけ。
バンクには個人で一つ、クランや商会なでの団体も一つ、金庫が登録できる。この金庫は空間魔法で管理されており、貯蔵量は無限である。登録する際に、本人の血と4桁から7桁の暗証番号の2つが必要になる。登録が終わると、カードと金庫の番号が発行され、それが登録証となる。この登録証にはさっき言った自分の血が含まれており、他人が偽造もしくは不正に出来ないようなっており、そしてバンクの利用には
番号も必要になる。つまり、不正防止の為をいうわけだ。
団体の場合は、カードに含ませる事が出来る血を追加で登録することが出来るので、その都度俺達のような会計係を登録していき、限られた複数の人数が扱えるようにしていく。
そして、俺がなぜバンクに来たのかというと、冒険者達の確定した報奨金をその冒険者の金庫に入金する為である。
ギルドからの依頼を達成したりすると、ギルドから報告書と確定書が渡され、これをバンクに持っていくと、その冒険者の金庫に報酬金が入金される。だが、これは個人の場合であり、クランに所属している場合は、報告書だけ発行され、これをクランの会計係つまり俺達みたいなところに渡し、そこでクランに収める分の金を差し引いた金額を確定書として発行するのだ。それを、俺達会計係がバンクに持っていく。
つまり、俺がこの場にいるのは確定した冒険者の報酬金の金庫への入金というわけだ。しかし、ここに来る度に思うが、ここはいつも人の数が半端ないな。俺は、受付で番号札を貰うと、待合席に座り自分の番号が呼ばれるのを大人しく待つ。
「77番の方こちらへどうぞ」
ようやく自分の番号が呼ばれた。すぐの時もあるが、今日は少しだけ時間が掛かったな。俺は、個別に区切られたカウンターに向かう。そこには、眼鏡を掛けた女性職員がいた。
「今日はどういったご用件で?」
「各冒険者の金庫に入金をお願いします」
俺は、持って来た書類の束を職員に渡す。
「かしこまりました。ウーラオリオの方ですね、処理までお時間掛かりますので、同じ番号でお呼びしますので、再度お待ち下さい」
「判りました」
俺はカウンターを離れると、再度待合席に戻る。今日の書類の量は結構あるので、その処理も少し掛かりそうだ。クランに戻るのは、もう少し掛かりそうだ。
「おや、バアル君じゃないか。久しぶりだね」
「うん?」
席で暇を持て余している俺に、声を掛けられる。
「あれ、ロープスさん。お久しぶりです」
身長は俺よりやや高く、俺と同じく黒髪の男性が、作業着姿で立っていた。しかし、ロープスさんは、その外見とは裏腹にすごく優しい人だ。
「珍しくもありませんね。装備屋を経営しているなら、バンクにはむしろ俺より来ていますよね」
「まあ、個人で経営しているからね。自由なところもあれば、やる事が多くて大変でもあるよ」
ロープスさんは装備屋を経営していて、ウーラオリオとも付き合いのある人である。彼の扱う装備品はどれも良質で値段も良心的なので、ウチのクランの人達からも評判がとても良い。確か、アストレイアもこのロープスさんのお店を利用していたはす。
商売柄バンクの利用は多いのだが、ここでは会うのは本当に久しぶりだ。お店にも最近行く機会がなかったからな。
「お店の方はどうですか?」
「順調かな。最近は冒険者の人達がひっきりなしに利用してくれていたから、忙しくはあったけど、おかげでお店的には大助かりだったよ」
「それは良かった」
「ウーラオリオの人達もウチの店に来てくれるから、助かっているよ」
「ロープスさんのお店は、どれもいい装備品を扱ってくれてますし、当然といえば当然ですよ。それに、店主の人柄も加味されていると思いますよ」
ロープスさんは俺の言葉に、「そんな事はありません」と謙遜をする。そんな事あると思うのだが。
「最近は何かいい物は入りましたか?」
「うーん。最近だと、シルバーファングの毛で作られたコート、中々上質の魔石がいくつか入ってきたよ。あっ、聞いてよ、バアル君。なんとね、魔剣が一本手に入ったんだよ!」
「えっ、本当ですか! それは凄い」
この世界で、魔剣は高値で取引されている。その理由は、魔力を持っている人間が限られているからである。人は元々、
逆に、身命を持たない代わりに、魔力も持って生まれる者がいる。その割合は、圧倒的に身命も持つ者のよりも少なく、基本的にどの職業でも魔力を持つ者は重宝される。なぜならば、魔力を持つ者は、魔法を使う事が出来るからである。
魔法とは、魔力を変換して、あらゆる現象事象を起こしたり、干渉したりすることが出来る事を指す。魔法は日々進化しており、新しい魔法を生み出せば、それだけで歴史に名前を残せるほどだ。それと同時に、それは難しい事の証明でもあるのだが。
そして、魔剣とは、剣に魔法が付与されている剣だ。魔導士が特別な技術を用いて、剣に魔法を付与する
「それって…」
「ああ、人工の方だよ」
「そうですよね」
神生の方はそれこそ、未開のダンジョンなどで発見されることがあるが、あれは希少過ぎて、ここ最近は見つかったという報告は聞かない。だからといって、人工魔剣が価値がないというのも違い、魔法を付与する方法は魔導士だけが知る技術で一般的には公開されておらず、造っている工房があるが数自体が本当に少なく、市場に出回る事はあまりない。なので、偶に魔剣が出ると、かなり高い値段が付くんだけど。
「よく手に入れましたね」
「うん、頑張ったよ」
「もう売れたんですか?」
「今、何人かと交渉中かな。せっかくの魔剣だからね、いい使い手の元に渡って欲しいからね」
「ロープスさんならのお眼鏡に叶うのなら、大丈夫ですよ」
「なら、いいけど」
そう言って、ロープスさんは笑う。俺がロープスさんに好感を持っているのも、ただ金を出されて売るのではなく、いい商品をしっかりと売る相手を見定めて売るところだ。言ってしまえば、人を観る目があるって事だ。
「そういえば、魔剣を仕入れた時に、奇妙な話を聞いたな」
「奇妙な話?」
「実は、今回の魔剣は三本造られたらしいんだが、その内の二本は、自分の所と他の人に渡ったんだけど、最後の一本が消えたんだ」
「消えた? 誰の手に渡ったか判らないという事ですか?」
「だとしたら、記録なんかに残るはずなんだが、それすらない。文字通り消失してしまったのさ」
「……裏に流れた」
「かもしれない」
正しい取引が行われたのであれば、記録として残るはずだ。それすらないとなると、表に残らない取引がされた可能性があるか。だとすると、その魔剣が表に出てくる事はないかもしれない、もったいない。
「77番の方、お待たせしました」
「それじゃあ、呼ばれたんで行きます。情報ありがとうございました」
「こっちこそ世間話に付き合ってくれてありがとう。今度店に来てよ」
「はい、ぜひ」
俺は一礼すると、ロープスさんと別れて、カウンターに向かう。魔剣の消失か、まあ俺には関係ないか。
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