吾輩は猫である

「吾輩は猫でありますか?」


 近所の公園を散歩していると、日当たりの良い芝生の上に猫が寝転んでいた。日向ぼっこをして気持ちよさそうな顔でゴロゴロしている。その隣に猫田さんが座っているのが見えた。

 猫田さんは、しゃがんで猫に話しかけているようだった。猫田さんは猫が好きだからな。


「君は吾輩君ですか? それともわらわちゃんですか?」


 猫田さんは、独特の感性で猫に話しかけているようだった。「わらわは猫である」ってなかなかに気品があって可愛いかもしれない。話しているのは野良猫だと思うんだけども。

 丁寧に呼びかけている姿が面白かったので、眺めてみることにした。


 猫の方は、問いかけに対して顔を洗うようにして「ニャー」とだけ答えていた。



「君がどっちか気になるんだにゃー! ちなみに私は妾にゃー!」


 多分、猫田さんは「私は女の子だよ」って言ってるんだと思う。話しかけている猫を真似しているのか、顔を洗うようにして話しかけている。


「どうにか、お腹の辺りを見せてくれたら、わかるんだけどにゃー? 男の子だったら、もう少し男の子らしく接しないといけなくなるにゃー!」


 猫田さんは、よくわからない理屈で性別を気にしているようだった。自分が猫の真似をしていたから、今度は自分の真似をしろと言わんばかりに猫田さんは芝生に仰向けに寝転がった。


「こうすると気持ちいにゃー。冬とは言えど、日光を身体に浴びるのは暖かくて、気持ちいいにゃー。君もこの格好するにゃー」


 猫田さんはロングスカートを履いている。制服じゃないから、すぐ見えるということは無いけれども、見る角度によっては中が見えてしまうかもしれない。

 本当に何をやっているんだろう猫田さん……。


 私が呆れて見ていると、猫の方に思いが通じたのか、猫も仰向けに寝転んだ。


「ええぇ。すごい……」


 思わず声が漏れてしまった。

 猫田さんはこちらに気付いたようで、目が合った。猫田さんは仰向けで寝転んだままこちらに答えてくる。


「にゃー。吾輩は猫であるにゃー。……あ、間違えた。妾は猫であるにゃ」

「う、うん。猫田さんこんにちは。猫さんごっこ、可愛いとは思うよ」


 猫田さんは満足そうに頷いて、猫のように目を細めて笑っている。


「この子、今ひっくり返ってるにゃ。股のところを見て欲しいにゃ。もしも何かついていたら、この子は吾輩にゃ!」


 猫田さんは誰が来ても、このキャラを崩さないだろう。そういうマイペースなところがあるからな。

 私も協力してあげようと、猫の股を見てみる。結果としては、この子は男の子だった。


「猫田さん。この子、男の子っぽいよ?」


 教えてあげると、猫田さんは嬉しそうに笑った。テンションが少し上がったみたいに話始めた。


「やったー! やっぱりそうだよね! 『吾輩は猫である』だよね! 私その方が好きだにゃ!」

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