剣道

 文化祭の準備を進める教室。とても賑やかだ。

 教室に集まる人が多いためか、とても湿度が高くてジメジメとしている。梅雨に入る前だというのに、大雨が降っていることもジメジメに拍車をかけてくる。

 そんな中では、みんなストレスも溜まるわけで……。


「ちょっと男子!! 何遊んでるの!!」


「何って、これは遊びじゃないから! 勝負だから!」


 男子は新聞紙を細長く丸めて、剣のようにしている。それを持って、二人で向かい合っている。片方は二刀流。片方は一刀流。

 その姿は、さながら巌流島での宮本武蔵と佐々木小次郎みたいだ。


 じりじりと、にじり寄る。小次郎が剣を振るう。武蔵はそれを片手で受けて、もう片手で小次郎を打つ。


「ぐっ!」

「やっぱり遊んでるでしょ!!」


 美代子は男子たちに注意する。彼らは仕事をせず、ただふざけて新聞紙の剣で戦っているように見える。


「いや、だからこれ、出し物の練習だろ?」


 実のところは、男子たちの言う通り。

 これは遊びじゃないのだ。これが私たちのクラスの出し物、「新聞紙チャンバラ」の道具だ。

 けど、美代子みよこが言いたいのは、もっと違うこと。


「ねえ、ちゃんとやってよ!」

「だから、ちゃんとやってるだろ?」


「違うんだよ。全然違うの。もっと本気で戦わないとダメでしょ」

「ほえ?」


 美代子は男子たちに注意すると、手に持っていた剣状にまるめられた新聞を取り上げた。そして、私の方へ一本渡してきた。


加奈子かなこ、お手本見せるよ!」

「あ、うん」


 美代子と私は剣道部。ちなみに私は剣道初段。

 こんなところでやる者じゃないと思うけれども、美代子がやる気なら私も本気でやるか。


「加奈子って、チャンバラできるの?」

「俺たちより弱そうだけど?」


 私は大人しそうに見えるけどね。ちゃんと見せてあげるか。

 私は美代子に向かって一歩踏み出す。彼らは私のことを知らない。私の剣道の腕前を。


「やるよ!」

「おうー!」


 私は叫び、新聞紙の剣を握る。一瞬で、美代子の剣を叩き落とす。私の動きは素早く、正確だ。私はチャンバラが好きだ。本物の剣ではないけれど、この軽い新聞紙の剣でさえ、私の心を躍らせる。


「えいやーーーー!」


 男子たちは驚いている。それを見て私は微笑む。

 私は、美代子の二太刀目も、叩き落とした。


「……おぉー」


 感心する男子たちに向けて、美代子は自分事のように言う。


「これが、本気でやるってことだからね! わかった?」


「……わかった」


 その後、またクラスのみんなは文化祭の準備を続ける。

 美代子と私は笑いながら、また作業へと戻る。


「やっぱりすごいね、加奈子は」

「うん。私、剣道だけは、好きだからね」

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