伊達巻

 白い雲がふわふわしてる。

 窓の外の遠い空に、雲が見える


 碧色の空に浮かぶ様子は、まるでクリームソーダだ。

 窓の外に見えはするんだけど、手は届かない。

 それはまるで、ショーケースに並べられた、クリームソーダみたい。


 風もあまり吹かないような、穏やかな天気。

 教室から見える雲は、時間が経つにつれて、何個にも分かれて、何人前ものクリームソーダが浮いているように見える。


 ――じゅるるる……。



 見ているだけで、口の中が甘くなる。

 よだれが垂れるような、お昼前の授業時間。


 垂れないように、口の中に押しとどめるけど、今にも溢れ出しそう。


 それと同時に、お腹の虫も食べ物を求めているみたいにそわそわしている。

 今にも鳴りそうに、ウォーミングアップを開始させているみたい。



 チャイムが鳴るのが先か、私のお腹が鳴るのが先か。

 わさわさとお腹が動くのわかる。


 時計の秒針が、地道に頂点を目指して昇っていく。

 どちらが先か……。


 ……早くチャイム鳴って。

 ……私のお腹、耐えられなさそうだよ。




 ――キーンコーンカーンコーン。

 ――グーーー。



 同着。

 パタン、パタンと教科書をとじる音。


 あとは、邪魔者の先生が出ていけば良いだけ。


 ――ガラガラ。

 ――ガラガラ。





 ふぅ……。

 先生がいなくなると同時に、私はお弁当を出した。


 それに遅れて、友達が集まってくる。



「伊達ちゃんお弁当食べ始めるの早いよー」

「食欲旺盛すぎだよー!」


 そんなことを言われるけれども。

 ボクとしては急務なわけで。


「ボクのお腹が求めてるんだよ」


 言い返すと、みんなはいつもの事だと分かっているように頷いてる。

 ボクはお弁当を開ける。

 黄色のお弁当。


 みんなもお弁当を開けるけれども、ボクのお弁当だけ、黄色ががかっている。

 それもいつもの事。



「相変わらず、玉子焼きが多いね」

「伊達ちゃんは、ほんと玉子焼きが好きだよね」


 みんなは口々にそう言うけど、厳密には違う。

 間違ってる箇所をボクは否定する。


「みんな、わかってないよ。これは、玉子焼きじゃなくて、伊達巻!」


 ボクがそう言うと、みんなはいつもの事かと、微笑んで頷いている。


「伊達巻と玉子焼きは全然違うわけ! 伊達巻は魚のすり身が入ってるんだよ! 玉子焼きとは、作りからし違うんだよ!」

「へぇー」


「伊達巻は甘いんだよ! 甘くない玉子は玉子じゃないよ!」


 みんなは、気にせず自分のお弁当を食べ進めていた。

 それぞれのお弁当に入っている玉子焼きもある。


「ボクは甘くないものを、玉子焼きだって認めないよ!」

「じゃあ、私の食べてみる? 甘くないけど美味しいよ?」


 そういって、箸を伸ばされるので、口を開けて食べる。

 けど、これは、玉子焼きじゃない。

 そもそも、ボクが好きな伊達巻でもない。


「やっぱり違うよ。ちょっと食べてみてよ。玉子焼きじゃなくて、甘い甘い伊達巻がボクの好きな物だから!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る