落とし物

 移動教室からの帰り道。

 学校の廊下は、比較的涼しいけれども、窓の外は今まで以上に明るく見える。

 日の光が強くなると、夏が近づいているんだなって感じる。


 歩いていると、隣に美智子みちこが来た。


「先生言ってたけどさ、今週が終われば、もうゴールデンウィークなんだね。皐月さつきはどこか行くの?」

「私は山梨の方まで行くよ。何泊かして遊ぶ予定なんだ」


「えーー、うらやましい! 山梨のどのあたり?」

「えぇっとね。それはスマホにメモしてるんだ。……ってあれ、スマホが無い?」


 ポケットを探しても、どこにもない。

 まずいな。スマホが無いと大変だ。

 電車の定期も、スマホに入っていたりするし。


「えー? どこかに落としたの?」

「もしかしたら、さっきの授業中に落としちゃったのかも。ちょっと探してくる!」


 急いで化学室へと向かった。

 運のいいことに、化学室はまだ鍵が開いていて、中に入れた。


 早く探しちゃおう。



 スマホに、コード決済情報が入っていたり。

 他にもいろいろ恥ずかしい写真とか、恥ずかしいメールとかもあるし。

 まず、ロック画面からして恥ずかしい。

 あのロック画面を見られたら、隠れてオタ活しているっていうのがすぐばれちゃう。

 あれ見られたら、私お嫁に行けなくなっちゃうよ。

 うぅ……。


 あ、あれ私のスマホじゃない?

 黒板のすぐ前の机の下に落ちているのが見えた。


 良かった、あった。


 安心した瞬間、次の授業のクラスの生徒たちが入ってきて。私のスマホがある席についた。

 そして、私のスマホに気づいたようで、すぐに拾ってしまった。


「こんなところにスマホの忘れ物があるぞ。誰のだろ?」

「とりあえず、ロック画面とか見てみたらいいんじゃない? 誰だかわかりそうじゃない?」


 あ、まずい。

 見られちゃうじゃん。

 早くしないと……。


 けど、いきなり名乗り出ていったら、そのタイミングでちょうど画面見られそうだし。

 そうなったら、一番最悪……。


「おいおい、人のモノだから、ロック画面でも見るのは良くないだろ」


 そう言ったのは、同じ中学だった健司だった。

 健司は、隣のクラスの男子たちから、私のスマホを取り上げてくれた。

 今のうちに名乗り出よう。


「ご、ごめん。そのスマホ、私のなんだ。拾ってくれてありがとう」

「お? これ、やっぱり皐月のだったのか」


 ……やっぱりって言った?

 私のスマホだってわかっていたってことなのかな?


 健司は、他の人には聞こえないように、こっそり耳打ちして教えてくれた。


「……お前のことだから、ロック画面をアニメ画像でもしてるんじゃないかって思ってさ。守っておいたぞ」

「あ、ありがとう」


「お礼に、俺にそのアニメのこと教えてくれよ。俺も多分それ好きだからさ」

「……え、そんなこと。あるの?」


 健司は、ニコッと笑って見送ってくれた。


 私はすぐに化学室を出た。

 健司に危ないところを助けてもらったな……。



 私のロック画面。

 BLアニメなんだけどな。

 これ、本当に好きなのかな……?


 けど、健司になら少し話してみてもいいかもか。

 落とし物をしたから、新しい仲間を見つけちゃったかもしれないな。

 落とし物してみるのもいいかもね。

 もしそうだとしたら、好きかもな……。ふふ。

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