消防士

 帰りの会が終わって、学校のチャイムが鳴り響くと、私はいつものようにランドセルを背負って教室を出た。

 今日も一日が終わり、家に帰る時間だ。


 でも、いつもと違うことが一つあった。

 いつも通り騒がしい廊下だけれども、みんな窓のところに集まっていた。

 皆が注目する先には、赤いライトがキラキラと光る消防車でいっぱいだった。


「わー! すごい、いっぱいいるぞ!」

「かっこいいーー!」


 クラスの男の子たちは窓から顔を出して大はしゃぎだった。

 でも、私はそんなに興奮しなかった。

 まわりの女の子たちも、私と同じだった。

 消防車が来てるってことは、つまり、どこかの家で火事ってことだもん。


 私は、何となく心配になった。


 消防車を見ている男子を横目に、早歩きで廊下を行き、学校を出た。


「大丈夫かな……」

 門を出たあたりで、煙が空に向かって立ち上っているのが見えた。

 あっちの方向は、私の家の近く……。

 私は急いでその方向に向かった。



 火事現場に近付くにつれて、煙はどんどん濃くなっていく。

 幸いにも、私の家は火事ではなかった。

 名前は分からないけれど、近くの家が火事のようだった。


 消防士さんたちは黙々と消火活動をしていた。ホースから勢いよく水を出して、燃え盛る炎と戦っている。

 消防車はカッコイイとは思わなかったけれども、近くで見る消防士さんの頑張っている姿は、本当に凄くカッコよかった。

 私は、その場に立ち尽くして、ただ見とれてしまっていた。


 立ち上る煙、炎は恐怖を感じさせてくる。


 けど、消防士さんって、すごいな……。

 あんなに怖い炎だけれども、そばにいるだけで安心する気がする。


 ふと気がつくと、私の隣にはいつも泣き虫で有名な健二けんじ君がいた。

 そういえば、彼はいつも「消防士になりたい」と言っていた。


 頑張る消防士さんを見ながら、健二くんに聞いてみた。

「消防士さんって、あんな怖そうな炎と戦うんだね。健二君、本当に消防士になりたいの?」


 と聞くと、彼は小さな声で「うん」と答えた。

 返事をした健二君の目は、真剣そのものだった。


 健二君は泣き虫だと思っていたけれど、真剣そうにする顔は、どこか頼もしく見えた。

 そんな健二君を見たからか、私もいつかはこんな風に人を助けることができる人になりたいと思った。


 消防士さんの活躍によって、少しづつ炎は弱まっていった。

 やっぱり、消防士さんってカッコイイ。



「そういえば、健二君ってなんで消防士になりたいの?」


 健二君も、炎がおさまって来たので、表情が和らいでいた。


「やっぱり、カッコイイからだよ。炎から街の人を守る。それに命を賭けてる。そんな姿が僕は好きなだ!」

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